二杯目 キューバリブレは一絞りの嘘で

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「池杉光太郎でしょう。彼の証言である『犯人が金を要求した』が真っ赤な嘘なのです」  飄々として長い前髪を揺らし、カラスマは答えた。 「え……えぇえ!?」  深雪はあまりの驚きに、普段なら絶対あげないような奇声を発し、酔いもあってか力無くふにゃりとカウンターにうつ伏せてしまった。 「そんなの、絶対に有り得ないわ」 「それはどうでしょう。お客様が赤裸々に話してくださった防犯カメラの映像と、想像される当時の状況を考慮すれば、必然的に池杉の発言は嘘だとわかると思いますが」 「わかんにゃい! 説明して!」 「かしこまりました」  駄々っ子と化した酔っぱらいに、バーテンダーは慇懃にお辞儀をする。 「防犯カメラの映像を振り返ってみましょう。そこにはまず、不審な点が一つあります。何故、強盗は最初、池杉にだけ凶器を向けていたのでしょうか」 「それは店員を脅して、お金を手に入れるために決まってるじゃない」
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