二杯目 キューバリブレは一絞りの嘘で

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「いえいえ、そうだとすれば、強盗の動きは極めて不自然だと言えるでしょう。だって、店内にはもう一人、客である南奈美恵がいたのですよ? 犯人が強盗を目的としているなら、南奈美恵の方にも刃物を向け、脅すべきだとは思いませんか」 「あ、確かに」  目を丸くする深雪。彼女に構わず、カラスマは話を続ける。 「それに加えて、犯人が強盗犯だったと仮定すると、発生する違和感が二つあります。  一つはドリンクチケットです。何故犯人はわざわざ証拠品になるようなものを持ち歩いていたのでしょう。どう考えてもそれは強盗には必要のないものです。  二つ目は根本的問題です。犯人が強盗を目的としていたなら、何故彼女は店員が一人の時を選ばなかったのでしょうか。強盗というリスクある行為を少しでも確実に遂行するなら、客のいる時ではなく、店員が一人でいる時を狙うべきではありませんか。  以上、二つの違和感を考慮すると、導き出される結論があります。そもそもこの犯人が、強盗を目的としていなかったということです」 「そんな……」
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