二杯目 キューバリブレは一絞りの嘘で

58/64

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/121ページ
「池杉はどうして嘘をついたのかしら。自分を殺そうとした相手でしょ。彼が犯人を庇う意味がわからないわ」 「その犯行に、自分自身にも非があると思ったからでしょう。そして逆に考えれば、犯人は池杉がそう思わざる負えなかった人物ということにもなりますね。つまりーー彼とそういう関係にあった人物であることが窺われます」 「家族、友人、恋人ーー対象はたくさんいるわね」 「そうですね。では、もう一つの事実ーー犯人の衝動的な犯行について考えてみましょうか」  カラスマが長い人差し指をピンと立てる。どうも彼はこの謎解きを楽しんでいるようだった。 「この犯行が極めて衝動的だったということに異論は?」 「ないわ。強盗でなかったとすれば最早それ以外に考えられないもの。決定的証拠品でもあるドリンクチケットを持ち歩いていたこともそれを物語っている。我を忘れて、殺意の赴くままにコンビニに押しかけてきたってことよね」  ピシャリと言ってのける深雪に、カラスマは少し驚いたような顔を見せる。ただそれも一瞬で、すぐに彼の顔はいつもの妖しい微笑を纏うのだった。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加