二杯目 キューバリブレは一絞りの嘘で

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「それが僕の結論です」  カラスマはそういって推理の開陳を終えた。  所々癪に障る部分もあったが、その結論は深雪にとっても納得のいくものだった。  北野莉子の極めて衝動的な犯行。もし、池杉が嘘の証言をしなければ、ここまで事件が複雑になることはなかっただろう。  池杉と北野莉子の関係はわからない。だがおそらく、北野莉子の殺意の大きさから、かなり深い関係にあったことだけは確かだ。  深雪はすっかり水滴を纏ってしまったキューバリブレのグラスを手に取り、少し多めに口に含んだ。喉を通っていく清涼感と鼻腔をくすぐる甘い香りに疲れが溶けていくのを感じる。  ーーライムを入れなければ、ただのラムコーク。  満足げな微笑でクラスを磨き続けるカラスマを一瞥して、彼の言葉を思い出す。  池杉ーー彼は、どうして嘘をついたのだろうか。  南奈美恵も、池杉とただならぬ関係であったことはインスタの投稿を見れば一目瞭然だった。そんな彼女を目の前で手にかけられて、人は黙っていられるものなのか。そんなはずはない。  北野莉子を守ることを、結果として池杉は選んだのだ。
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