一杯目 スクリュードライバーは必然に

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 自分で言って、グサリ、心に突き刺さる。けれど取り澄ました表情は崩さない。プライドが許さないからだ。でも心中で言い訳はする。――だってしょうがないでしょ、仕事が忙しくてそんな暇ないんだから! 「そっか。みゆきち美人だから絶対いると思ったんだけどなー」 「仕事が忙しいのよ」  むしろ、これだけ忙しい刑事の仕事をこなしつつ、美人と呼べるルックスだけでも保っている自分を褒めて欲しいくらいだ。深雪は澄ました顔のまま綺麗な黒髪をわざとらしくかきあげる。 「あたしも今とーっても忙しいけど、恋はしてるよ? やっぱオシャレと恋はしないと女の子はダメになっちゃうよ」  グサリグサリ。恋愛なんてかれこれ数年以上無縁だった。オシャレも然り、刑事という職業柄スーツばかり着ている。女らしい格好なんて滅多にしない。化粧もいつも最低限。今だって仕事帰りだからスーツのままだった。それでも美人なのは元の素材がいいから……という言い訳もいつまで通用するのか。  そんな深雪とは違い、林田樹里はクロップトップの大胆なシャツに、スキニージーンズと涼しげかつ大人っぽくキマっている。化粧も完璧。香水までシャネルの高いやつを使っている。  それに、生地の上質さやロゴから、彼女の身につける衣服がいずれもハイブランドであることも見てとれる。それに極め付けは腕に巻かれた光り輝くロレックスだ。 「随分とうまくいってるのね、仕事」
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