一杯目 スクリュードライバーは必然に

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 深雪はむくむくと湧き上がる嫉妬心を隠しつつ、キリッと澄ました表情のまま言った。職業柄、林田を観察・分析して出した結論だった。  もっとも普通に考えて、余程の収入がなければ二十代でこの装いには無理がある。 「さっすが刑事さん、よくわかったね。数年前からやってるビジネスがやっと軌道に乗ってきたの。だからちょっと贅沢できちゃうんだ」  ロレックスをちらつかせて、林田はペロッと舌を出す。 「すごいわね。ビジネスって、何をやってるの?」 「あー、それはね、ひ・み・つ」 「ちょっと、不公平じゃない? 私は刑事やってるって教えたのに」 「そんなに気になる? あたしの仕事」 「ええ、まあ」  実はそんなに興味がないことはさておいて答える深雪。 「うーん、どうしよっかなあ。あ、それじゃあさ!」  閃いたとばかりにパン、と手のひらを合わせ林田樹里はあざとくニッと笑う。 「ビジネスの話は教えられないけど、成功の秘訣は教えてあげるよ。聞きたいでしょ?」  深雪は極めて自然にクールフェイスを保ったまま、停止していた。顔はクールだったが、内心は当然穏やかではない。  成功の秘訣? 何でこんな下品なバカ女の自己啓発なんか聞かなくちゃいけないのよ。というか、その言い方じゃまるで私が人生に失敗してるみたいじゃない。失礼な。
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