一杯目 スクリュードライバーは必然に

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 でも、ちょっと気になるのも確か。遊んでばかりいたバカ女とはいえ、今は左手首にロレックスを巻いているのも事実だ。――いいわ、聞いてあげようじゃないの。ほんとは心底どうでもいいけど。  ということで、深雪は「うん、まあ......ええ」と一応肯定のニュアンスで返事をする。 「では、教えましょう。林田的成功の秘訣それは――恋です」  ふふん、とドヤ顔を浮かべ、林田は断言するのだった。 「鯉? 魚の?」 「違う! なんでそうなるの。恋、恋愛よ。れ・ん・あ・い」  ムッとして空中に『れんあい』と指で書く林田。深雪があまりのくだらなさにボケたことには気づいていないらしい。 「ビジネスと恋って関係あるの?」  冷たく据わった目で尋ねる深雪。 「直接あるわけじゃないよ。でも、好きな人がいて、それで幸せーってなると、仕事もうまくいくってこと! 深雪もいい男見つけなよ。そしたらもっと悪い人をいっぱい逮捕できるよ!」  何故かピースサインを出す林田。その左手首には、ロレックスが煌々(こうこう)と光り輝いている。レディースだがデイトジャストというモデルで、最近は値上がりしておそらく二百万はくだらないであろう価値の代物だ。  深雪は光り輝くロレックスを見つめながら、不意に『アリとキリギリス』という童話を思い出していた。
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