一杯目 スクリュードライバーは必然に

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一杯目 スクリュードライバーは必然に

「でね、彼超冴えない見た目なんだけど、意外とカッコいいとこもあってえ、結局付き合うことになったんだけどお、もうね、今、超幸せなんだー」  世田谷区三軒茶屋の飲み屋街こと三角地帯の焼き鳥屋でかれこれ一時間、林田樹里(はやしだじゅり)の恋愛よもやま話は続いていた。  三軒茶屋警察署所属の刑事――直塚深雪(なおつかみゆき)は死んだ魚のような目のまま、レモンサワーに口をつける。  金曜夜。久々に定時上がりからの楽しいハッピーアワーのはずだったのに、どうしてこんなことに。曇る表情のまま、彼女は冷静に分析する。  対面でベラベラと彼氏自慢をする馬鹿女こと林田は深雪の高校の同級生だ。確か一回同じクラスになったほどで、別に仲が良かったわけではない。  むしろ、深雪は学業優秀な孤高の秀才で、林田は学業そっちのけで仲間と遊び呆けているようなギャル。そんな間柄だった。だから、どうせ卒業したら一生話すこともないだろう、そう思っていたのだが――  一時間前、珍しく早く上がることができたので、お気に入りのバーにでも飲みに行こうと一人で三角地帯を練り歩いていたところ、「あれ、もしかしてみゆきちじゃない?」と林田に背後から声をかけられたのである。  それから、あれよあれよと流されて焼き鳥屋に連れられて、現在に至るわけだった。 「ねえ、みゆきちはカレシいないの?」  突然の質問。みゆきちというのは林田が深雪に勝手につけたあだ名だ。 「いないけど」
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