#113 発見されたキスマーク

2/4
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/617ページ
 組まれた腕の引力により、再び椅子につけられた莉乃の尻。『妬かぬなら、強引に奪っちゃうぞホトトギス!』作戦云々ではなくて、己の思いのままに行動をしている昂生は、玲奈に指示を仰ぐのも相談するのももうやめた。三年間育んできた莉乃と俺の関係は、こんなことで崩れはしないと、そんな漠然とした自信だけが、彼を突き動かしている。  いきなり来て、愛する人との時間を邪魔されて、不機嫌になったのはもちろん准一。准一にとっても昂生は悩みの種ではあるが、しかし彼にだって自信はあるから。 「昂生はもう、莉乃と別れたんだろ?今は俺と真面目に付き合ってんだ。そっちこそこれ以上、莉乃に構わないでほしい」  と、はっきりくっきり言い放った。「はあ?」と顔をしかめる昂生の横で、莉乃も似たような顔になる。 「ええ!?わたしと准くんが付き合ってる!?それはない!」  ガ、ガーン!!ガガガガガーーーン!!ドシャガシャズタボロガガンのガーーン!!  第五十二話で、莉乃から「気持ちよくなかった」と言われた時を遥かに上まわる衝撃を喰らい、准一は一回死んだとすら思ったという。あの世から命からがら帰還して、はあはあと荒れる呼吸を整えて、カッスカスの声で彼は問う。 「い、今のはどっちの発言……?」 「ええ、どっち?」 「今俺の目の前にいる『水瀬莉乃』は……一体どっちの『水瀬莉乃』……?」  そう聞いておいて、先ほど彼女から呼ばれた名が『准くん』だったと思い出し、ベースの莉乃であると理解する准一。自分が元々好きになったのは、こっちの莉乃なわけで、彼女の中に潜むもう一方の人格はやたらと自分を好いてくれているけれど、本来の莉乃は自分に対し愛のカケラすらなかったことを思い知らされて、吐きそうになる。  ってことはあれか……キスをしたのもヤる寸前までしたのも、やっぱり全部莉乃じゃなかったってことか……
/617ページ

最初のコメントを投稿しよう!