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「いやん!ハレンチ!」
夢の続きを想像すれば、鼻血がビューッと出ていった。
恋人など、人生で一度もできたことのない若葉。もちろん恋人同士でするあんなことやこんなことも未経験の彼女にとっては、昨日の夢は刺激的すぎた。
どうやるんだろう、キスって。どうやるんだろう、エッチって。好きな人ができたら、いつかわたしも色々するのかな。
「あ〜、やばいっ。早く帰って小説書きたーい!」
この淡い色の空想を早く文字に起こしたくなり、ドスドスとその場で地団駄を踏めば、その振動で賽銭箱の上の鈴がジャラジャラ揺れた。
高校を卒業してから四年目の春。二十二歳になった若葉は、そろそろ恋がしたくてたまらなかった。
「わたしを変えてくださいっ」
そんな彼女が定期的に訪れるこの神社。痩せる努力にはどうしたって時間を費やせないが、痩せたい変わりたいと願う時間くらいなら費やせる。賽銭箱にチャリンと投げた硬貨と共に、彼女は願いを口にした。
「あー、変えるって言っても、もちろん良い方にお願いしますね神様。これよりもっと醜くなっちゃったら、笑えないんで。綺麗で可愛い方に」
顔も体型も、物心ついた頃から自分の外見は大体こんな感じ。いわゆるデブでブスだと、自覚症状たっぷりある。でも夢くらい、こんなわたしにも見させてよ。神様の魔法でさ、えいってしてさ。一日くらいシンデレラみたいにしてくれたっていいじゃない。
目を瞑り、手を合わせた若葉が願いに集中すると、辺りは静けさで包まれた。耳へ届くのは、春風がそっと揺らした木の葉の音だけ。さわさわとそよぐそれに心地良さを感じていれば、急に肩を叩かれた。
「待てよ渚っ。俺のこと、どう思ってんの」
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