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え、渚?
全くもって人違いにもかかわらず、背後の人間は強い口調。ばちっと目を開けた若葉は振り返り、人違いであることを伝えようと思った。
「あの、わたし渚って人じゃ……」
けれどそこで口を噤んでしまったのは、自身の肩に手を乗せた人物の顔に、どこか見覚えがあったから。
金髪のセンター分け。切れ長な瞳だけれどくっきり二重で、だいぶカッコいい部類。歳はそう、同じくらいか少し上か。
彼の顔をまじまじと観察していれば、何故だかこの顔と一緒に某チェーン店のハンバーガーを思い出した若葉のお腹が、素直にグウと反応を示す。それは目の前の相手にも確と聞こえてしまったようで、切れ長な瞳を細めた彼は、少々笑いを堪えているようにも見えた。しかしすぐに、その表情は正される。
「おい渚、答えろよ。俺のことが好きか嫌いか、そろそろはっきりしてくれ」
若葉の丸みを帯びた背中が彼の知人と瓜二つだったのかもしれないが、このぶつぶつ肌と団子鼻を見れば、すぐに他人だと気付くはずなのに、彼はまだしつこく話しかけてくる。
なにこの人っ。新手の手口の不審者っ?でもイケメンだしなあ、カッコいいしなあ。タイプじゃないけど、絶対ときめけるしなあ。この人にだったら騙されてもいいかも、なんちゃって!
そんな不安心と乙女心を格闘させながら男を見続けていると、ふとその後ろに見えた彼の背景の違和感に、若葉は度肝を抜かれるのであった。
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