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「ぎゃお!」
鳥居を潜り、狛犬の間を抜けて、確かに神社にいた若葉。しかし今の彼女がいる場所は、鈴の前とはほど遠い部屋の中、見知らぬ室内だった。
「な、なにここっ!」
ぐるっと一周見まわして抱いたこの部屋の第一印象は、『小さな体育館』。天井こそ低いものの、薄茶色のフローリングや、広々としたスペースのくせして物の少ない感じが、若葉にそう思わせた。けれど次に瞳へ映ったあるものが、その印象をがらりと変えた。
「鏡……?」
壁一面に張られた大きな鏡。デブでブスな自分はどこだと探すよりも先に、体育座りをしている同年代の人々が、十数人ほど見えた。彼等の真剣な目つきは皆、こちらに向けられているような気がした。
神社にいたのに、神社にいないじゃん。
知らない大勢の人が、こっちを見てるじゃん。
「どどどどどっ」
どういうことじゃ。
「ここななっ、れれれれれっ」
ここなに、レッスンスタジオ?
解せぬ状況に目眩を起こし、若葉は卒倒。
「お、おい!大丈夫かよ!」
「誰か!救急車!」
どよめく周囲の声を耳に、彼女は意識を失った。
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