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#003 夢じゃなかった
「あ、姉ちゃんおはよ」
若葉が目覚めたのは、病室の真白なシーツの上だった。むくりと上半身を起こした彼女は、ベッド傍の椅子に腰を掛けている人物を見やる。
「あんた誰やねん」
見知らぬ男の顔に、住まいの大阪では一切使用しない大阪弁で思わずツッコんだ。恋をしたい恋をしたいと思っている最近の自分だが、こうも立て続けに異性の夢ばかりを見るのならば、相当愛情というものに飢えているのかもしれないと思った。
「って、やなくてまさか!!わたし神社で寝ちゃったん!?」
ひとり慌てふためく若葉が面白かったのか、その男は大袈裟に笑っていた。
「あはははっ。なんだよその喋り方っ。姉ちゃん今度は関西人の役でも任されたの?」
「はい!?」
「あ、それか頭打って、第二の人格が出てきたとかっ」
あははは、と長いこと笑われ続けているその間、徐々に冷静さを取り戻していった若葉は、ぽかんと彼を見ていた。
ただの童顔なのかもしれないが、年齢は自分より下な気がした。栗色の髪の毛をオールバックで後ろで一本に結っていて、同じ色した眉はキリッと斜めに上がっている。それなのに瞳は垂れ目で優しい印象。『姉ちゃん』と夢の中で呼ばせているくらいなのだから、ひとりっ子の自分はこんな弟を無意識に望んでいるのだと思った。
屈託のない、愛嬌たっぷりの笑顔を見せた後に、彼は言う。
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