#003 夢じゃなかった

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「びっくりしたよ。レッスン中にいきなり姉ちゃんが倒れたって昂生(こうせい)くんから連絡あって。姉ちゃん死んだらどうしようって、今さっき食った賄いのラーメン全部吐きそうになった」  姉ちゃんが。  その言葉で、これは先ほどまで見ていた夢の続きだと悟った若葉。こんなことを聞いてみる。 「わたしの名前って、渚?」  金髪のセンター分け男は、若葉のことをそう呼んでいた。どうして夢の中のわたしは自分の名前をわざわざ『莉乃』や『渚』に変えるのだろうと不思議に思った彼女。どうせ自分の夢だし、どうせ自分が主役だし、そのまま『若葉』で通せばいいのに、と。  若葉の問いにきょとんと目を丸くさせた彼は、大きく首を傾げていた。 「はあ?姉ちゃんは莉乃でしょ。水瀬(みなせ)莉乃(りの)。やっぱ相当派手に頭打ったんだね。頭ん中ごちゃごちゃじゃんっ」  めちゃんこ心配そうな目を向けられてしまえば、彼が嘘をついていないと容易くわかる。 「え、どゆこと」 「は?どゆことってどゆこと」 「わたしの名前が『莉乃』だとしたら、それってあれじゃん、裸の夢の続きじゃん」 「はあ?」  あの日から眠ったまま、とは考えにくかった。何故ならその翌日(今日)の朝、母と口論した記憶もあるし、神社で願った記憶もあるし。  ならばやはり、公共の場である夕方の境内で眠りこけたのか。それじゃあつまり、だとしたら。
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