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「きゃっ」
「やばいやばい。姉ちゃんの頭、まじでおかしくなっちゃった」
「お、おかしくなってないよっ」
「いいから黙って寝てて。俺がいいよって言うまで起きちゃだめ」
歳下だと言えども、女性の若葉より遥かに強い力。覆い被さるようにして動きを封じられてしまえば、彼女が成せる術はない。
「ちょ、琥太郎くん近いっ……」
間近で香った男の匂いに、若葉の顔が熱くなる。この身体の持ち主である水瀬莉乃とは血縁関係にあるという彼だが、若葉にとっては今日初めて出会った赤の他人。ぽっぽと火照る両頬は致し方ないだろう。
「ねえ、琥太郎くんってばっ。ちょっと離れ……」
ちょっと離れてほしい。そんな要望を告げる前に、額にこつんと何かがあたった。
「俺のこと『琥太郎くん』とかって呼んでる時点で、姉ちゃんがっつり末期だよ、絶対高熱あるよ。まじで今日、入院してこ」
熱を測っているつもりなのか、くっつけた額と額を中々離さない琥太郎に、若葉の体温は急上昇。
「あ、ほら。超熱い」
体調の悪さからくる発熱では決してなかったが、姉思いの琥太郎が病院側へ懸命に頼みこんだせいもあって、本日の入院は決定した。
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