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ピンコン ピンコン
「いらっしゃいませー」
昼夜を問うことなく、コンビニの扉が開けば聞こえるのは、客の入店や退店を知らせる短い音楽と店員の挨拶。
「配送ですか?QRコードをお持ちでしたら、あちらの機械で操作をお願いいたします」
宅配便やらコピーやら公共料金の支払いやら、さらには電気自動車の充電まで面倒を見る昨今の店員。幼い子供から九十を超えたお年寄りまで、フリーターから社長まで相手にする彼等は、もしかしたら大学教授よりハイスペックな人間なのかもしれない。
「ありがとうございましたー」
ここは大阪市の、西淀川区。全国どこにでもあるチェーン店のコンビニのうちのひとつで働くのは、田村若葉という二十二歳の女性。
「今日は暇やね〜、若葉さん」
時刻は夜九時をまわった頃。客のいなくなった店内を見渡して、若葉に話しかけたのは高校二年生の里崎美央。店長不在をいいことに、今日は普段禁止されている高校のスカート姿のまま業務にあたっている。
「美央ちゃん、『今日は』じゃなくて『今だけ』だよ。すぐに残業を終えたサラリーマンたちでごった返すんだから。早いとこレジ前のホットスナック、追加で揚げちゃおっ」
ポケットから取り出したスマホを弄り出した美央の前を通り、裏の冷凍庫へと向かう若葉。
「は〜い。もう、若葉さんったら真面目やねんからあっ」
伸びた返事を耳に、大量のチキンが入った袋を抱えれば、若葉のお腹はグウと鳴った。
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