#004 これ、誰

4/4
前へ
/617ページ
次へ
「莉乃……?」  暗い部屋、露わな身で抱きしめてきた彼。見た、見た。闇の中でも見えちゃったあなたの色々。 「莉乃、大丈夫?」  頬に大きな手をあてがわれて、シューッと若葉の頭から湯気が出る。たちどころに集まってきた血液が、彼女の顔を真っ赤に染める。これが恋愛遍歴ゼロの女の反応だとは露知らず、物憂げな顔をしたのは昂生だ。 「顔、すごく熱いね。朝から調子悪かったの?それとも昨夜俺んちで、夜更かしさせちゃったからかな」  昨夜、俺んち。  その単語だけでも、また沸騰するのは若葉の頭。途中で切れた意識だけれど、男女が裸でベッドの上にいたのだ、夜更かしの理由は容易に想像がつく。 「あ、えと、大丈夫でするっ!」  頬にある手を退けるため、シーツから背を勢いよく起こして言った。 「き、昨日のことは今日の体調に関係ございませんので、お、お気遣いなく……!」  紅色の顔を隠すために俯いていると、また伸びてくる、手。 「はは、どうしたんだよ莉乃。まるで出逢った頃みたいな喋り方だな」  その手が今度触れたのは若葉の手、もとい、水瀬莉乃の手だった。骨の輪郭がわかるほどごつごつした強そうな手が、優しく若葉の手元を包み込む。 「あ、えーっと……」  敬語が不自然ならばタメ語で話せばいいのか、どうしたら自然なのだろうかと考えながら上目で彼を見ると。 「なんか照れちゃったよ。懐かしくって」  そう言った彼があまりに爽やかに微笑むから、若葉の心がとくりと鳴った。
/617ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加