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「莉乃……?」
暗い部屋、露わな身で抱きしめてきた彼。見た、見た。闇の中でも見えちゃったあなたの色々。
「莉乃、大丈夫?」
頬に大きな手をあてがわれて、シューッと若葉の頭から湯気が出る。たちどころに集まってきた血液が、彼女の顔を真っ赤に染める。これが恋愛遍歴ゼロの女の反応だとは露知らず、物憂げな顔をしたのは昂生だ。
「顔、すごく熱いね。朝から調子悪かったの?それとも昨夜俺んちで、夜更かしさせちゃったからかな」
昨夜、俺んち。
その単語だけでも、また沸騰するのは若葉の頭。途中で切れた意識だけれど、男女が裸でベッドの上にいたのだ、夜更かしの理由は容易に想像がつく。
「あ、えと、大丈夫でするっ!」
頬にある手を退けるため、シーツから背を勢いよく起こして言った。
「き、昨日のことは今日の体調に関係ございませんので、お、お気遣いなく……!」
紅色の顔を隠すために俯いていると、また伸びてくる、手。
「はは、どうしたんだよ莉乃。まるで出逢った頃みたいな喋り方だな」
その手が今度触れたのは若葉の手、もとい、水瀬莉乃の手だった。骨の輪郭がわかるほどごつごつした強そうな手が、優しく若葉の手元を包み込む。
「あ、えーっと……」
敬語が不自然ならばタメ語で話せばいいのか、どうしたら自然なのだろうかと考えながら上目で彼を見ると。
「なんか照れちゃったよ。懐かしくって」
そう言った彼があまりに爽やかに微笑むから、若葉の心がとくりと鳴った。
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