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#005 不要レシートはポッケの中へ
「せやからここは東京やあれへんて、大阪やて何度も言うてるやろ。わかれへん子やねえ」
ヒョウ柄ならぬ、ヒョウの顔をドーンと身に纏った年配のおばちゃんに、しかめ面を向けられた若葉は固まった。
「あんたはどこから来たん?ずいぶんとおっきな身体しとるけど、まさか相撲部屋から逃げてきたわけやないよね?」
ってうちも人のことは言われへんけど、と自嘲気味に、けれど豪快に笑うおばちゃんにアハハと下手な愛想笑いで返した若葉は、くるりと反転、彼女に背を向け歩き出す。
空は暗く、手足は太くて身体は重い。ここは神社ではないけれど、知っている馴染みの大通り。
神社にいたはずのわたしの身体が、神社から移動している。ということは。
若葉が察したのは、自分の意識が水瀬莉乃の身体に乗り移っているその間は、自分自身の身体にも、誰かの意識が乗り移っているのではないかということ。そしてそれは、もしかしたら水瀬莉乃の意識なのではないかということ。
乗り移りではなく入れ替わり。彼女の中で、その線が濃くなった。
東京?さっきのおばちゃん、東京って言ったよね?わたしと東京の話をしていたの?
はあ、はあ、と切れる息。考えごとをしながらも若葉が先を急いだのは、バイトに遅刻してしまっているからだ。
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