#001 これは夢か幻か

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 むしゃむしゃと、ただひたすらにチキンを頬張る音が聞こえるのは、若葉の自室。リビングで夜食をとれば「また太るわよ!」などと母がうるさいため、彼女は夜十時までの勤務を終えた後の食事は、自身の部屋でとるようにしている。  片手にチキン、片手にスマホ。ソファーの前で床にべたりと尻をつけ、座面脇に背を預ける。音楽も動画も流さずに、若葉は画面の中の活字に夢中だった。 「すごいなあ、みんな……」  暫くしてぽつり、そんなことを呟いて、彼女はポテトチップスを開封する。 「どうやったらファンタジーの世界の話なんか、思いつくんだろ」  パリッと一枚咥えて目を落とすのは、たぬきのように突き出た腹。 「わたしも転生して、モデルさんみたいな体型になりたいわっ」  そこをぽんと叩けば太鼓のような音がして、自嘲気味に若葉は笑った。  ぽん ぽん ぽん 「あらよっと」  ぽん ぽこ ぽん 「あ、そーれ」  ぽんぽこぽんぽこと腹でリズムを奏でながら妄想するのは、華奢なモデルになった自分がランウェイを歩くそんな姿だ。
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