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むしゃむしゃと、ただひたすらにチキンを頬張る音が聞こえるのは、若葉の自室。リビングで夜食をとれば「また太るわよ!」などと母がうるさいため、彼女は夜十時までの勤務を終えた後の食事は、自身の部屋でとるようにしている。
片手にチキン、片手にスマホ。ソファーの前で床にべたりと尻をつけ、座面脇に背を預ける。音楽も動画も流さずに、若葉は画面の中の活字に夢中だった。
「すごいなあ、みんな……」
暫くしてぽつり、そんなことを呟いて、彼女はポテトチップスを開封する。
「どうやったらファンタジーの世界の話なんか、思いつくんだろ」
パリッと一枚咥えて目を落とすのは、たぬきのように突き出た腹。
「わたしも転生して、モデルさんみたいな体型になりたいわっ」
そこをぽんと叩けば太鼓のような音がして、自嘲気味に若葉は笑った。
ぽん ぽん ぽん
「あらよっと」
ぽん ぽこ ぽん
「あ、そーれ」
ぽんぽこぽんぽこと腹でリズムを奏でながら妄想するのは、華奢なモデルになった自分がランウェイを歩くそんな姿だ。
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