#001 これは夢か幻か

4/6
前へ
/617ページ
次へ
「かっこいいモデルさんと腕組んでー、そのうち恋にも発展したりなんかしちゃってー」  ぽんぽこぽんぽこ。むしゃむしゃパリパリ。  痩せたいとは年中思っているが、それは無理だとも年中思っているので、若葉は食べる手を止めない。ふと目を腹から逸らせば、大木のような足二本が醜く横たわっていた。  鏡はもうずいぶんと前からすぐそこで伏せられたまま、触っていない。だからスマホのカメラモードをオンにする。インカメラを起動して、そこに映った人物を観察する。 「うっわ、今日もひどいなあっ」  手入れのされていないぶつぶつの肌に団子鼻。黒縁メガネの奥に潜む小さな双眸。どこへ向かって流れたいのかわからぬ短い前髪は、天然パーマのせいで寝癖のように見えた。 「どこからが首ですかーっ」  山頂でのやっほーの如く、我に投げかける。 「もしかしてあなたは人間じゃなくたぬきとかトドなんですかー?はっきりしてくださーいっ」  その言葉にむっときた鏡の中の人物が、あっかんべーをしてきたから笑ってやった。ひとりで何をやっているのだろうと虚しくなったところで、若葉はいくらか乱暴にスマホを放った。  頭をソファーの座面につけ、見上げる天井。 「あーあっ。綺麗になりたいぜこんちくしょうっ」  愚痴を溢したその瞬間に、彼女のまわりが一変した。
/617ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加