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だが、今は照明を消したくない。
明日の朝ランニングに行くときに使おうと思っていたマフラータオルが、視界の隅に見えた。
「恥ずかしいなら、隠せばいいよ」
それを手に取り、以前、奈月の手首を縛ったのと同タイプのタオルで目隠しをする。
まったく、僕は何一つ成長していないし反省が長続きしない。
反省したところで、奈月を前にすると欲望に支配されてしまう。
どうせまたすぐに後悔するとわかっていながら、奈月の視界を奪っていく。
「きつくない?」
「うん…。でも…、これ、わたしから見えないだけで、拓也くんからは見られちゃう…」
当たり前のことを言う奈月が可愛くて、思わずふふっと笑ってしまった。
「気にしなくていいよ。部屋が真っ暗なだけだと思ってくれればいいから」
「そんなの……ひゃ、あッ!んんッ!」
油断しているすきに、太ももの間に指を滑り込ませた。
軽く動かしただけで、くち、と緩やかな水音が聞こえる。
「濡れてるね」
「んぁッ…ンっ!拓也くんの…せいだも、ん…ゃあっ!」
さわさわと柔らかな恥丘を撫でたり、くにゅくにゅと指先を躍らせて透明な糸を作るたびに、可愛らしい啼き声が響いて楽しい。
さっき放り出した鞄の中から紙袋が飛び出している。
隼人の思惑通りの行為になってしまうのは癪だけれど、それらに興味がないわけではない。
寧ろこの機会を逃したら意地を張って、もう二度と使えなくなる気がする。
「めちゃくちゃにしていいって、言ったよね…」
「え………?」
不安そうに、奈月の身体がビクッと強張った。
「痛いときは言って。すぐにやめるから。それ以外は…とまらないかもしれないけど」
「拓也…くん……?」
「大丈夫だよ。たくさん気持ちよくしてあげたいだけだから。奈月、うつ伏せになれる?」
優しさを込めた声音で、穏やかな人のふりをして、安心してもらえるような言葉を吐く。やろうとしていることは身勝手な行為だと理解しながら。
「ぅ…ん……」
ゆっくりと奈月をひっくり返して、無防備なうなじにキスをした。
真っ白な背中が眼前に広がり、思わず手を伸ばした。
明るい部屋で見る奈月の裸体は別格だ。
とても美しくて目が眩む。形を確かめたくて、背骨のラインを、つつ…と指先でなぞっていく。積もったばかりの新雪みたいだ。
誰かに荒らされてしまう前に、僕が足跡を付けてしまいたい。
「んッ!…ぁ、ふふっ、くすぐったい」
掻痒感に身をよじった奈月の腰がくいっとあがった。ベッドとおなかの間にできた隙間に、クッションを挟む。
「そのままお尻を持ち上げてて。できれば、もっと高く」
「やぁッ、恥ずかしいよ……おねがい…見ないで…」
「ごめん無理。全部見たい。本当に綺麗だから」
つるりとした桃のようなおしりを撫でまわして、人差し指で掬い上げるように真ん中の筋をなぞった。
「あぁッ…んぅ」
猫が伸びをするときのような姿勢で、奈月の身体がしなる。
突き出された臀部をさすりながら、どうすれば奈月から嫌われることなくこの身体を支配できるのか思案する。
欲望のままに舐めしゃぶりたい願望を制止するのは、彼女から離れられるのが怖いという弱い自分だ。
しかし、まだ蜜が足りない。
長い時間挿入していたいなら、しっかりほぐして奥までぐずぐずにしないと痛い思いをさせてしまう。
「ここ、口でしてもいい?」
両手を大陰唇に添えて、左右に開いたり閉じたりしながら問いかけた。
くぱくぱと覗き見える魅惑的なこの小さな穴に、僕の凶暴な猛りが全てのみ込まれるのだから不思議に思う。
「だめッ!それはっ…今日はいや……仕事して、ごはん行って…シャワーだってまだなのに…」
だからいいんじゃないか、と言いたかったけれどこらえた。
ならば、それをする時はもっと酔わせてからにしようと、性懲りも無くこの先の楽しみまで考えてしまう僕は本当に救いようがない。
性への関心が薄かった昔の僕が今の僕を見たら「お前は変態か」と罵られそうだ。
「でも、しっかり濡らさないといけないから…これ使うね」
今日は僕に代わり、奈月のことを溶かしてくれるアイテムがある。
とろりとした液体を手のひらに流し出して指先に取り、奈月の陰部にくちゅりと塗り付けた。
「え?……ひゃ、ぁンッ!ゃ…なに…?」
ビクッと奈月の身体が跳ねる。
「温感潤滑ゼリーだって。媚薬のような気持ちよさ、って書いてある」
確かに、触っていると仄かにあたたかく感じる。ぬちぬちと外側から指を滑らせて、少しずつ中心をかすめていく。
右手をベッドに沈ませて背中に覆いかぶさって、わき腹の方から腕を回して陰部に左手を伸ばした。
そして、べろりと耳を舐るのと同時に鼓膜に直接囁いて、指先で膨らみ始めたクリトリスを弾く。
「本当かどうか教えてね」
「ゃあぁッんっ!!」
びくりと浮かせて刺激から逃げようとするおしりの割れ目に、下着の中で苦しくなっている屹立をずりずりと擦り付けた。
仕置きのように、陰核を中指でピンピンと上下左右に転がす。
ぬるぬるとよく滑るから、いつもよりも強い刺激を与えてしまう。
「やらぁッ!んぁぁあっ!」
口淫できないぶん食べ足りない。
うなじにキスをして、右肩を舐め、左肩を前歯でかじる。
腰を浮かせても逃げられないと察した奈月が、今度は膝を折って身体をベッドに沈ませようとする。
おなかに挟んだクッションでできた隙間に丁度良く僕の左腕がはまって、かえって陰部をいじりやすくなった。
親指と人差し指で、押し開いて剥いたクリトリスをくりくりと摘まむ。
ヌルついて指から外れてしまうからまたすぐに捕まえる。
くちょくちょと洩れ聞こえる音が大きくなってきたのは、潤滑剤だけのせいではない。
「らめぇッ…!しげき、つよい…の…ッッ!」
僕に組み敷かれて逃げ場を失った奈月の身体がビクビクと打ち震えているのを見て、微かに罪悪感が蘇る。
目の前には眩しいほどに滑らかな白。
僕の内の黒が引き立つ。
天使の羽に手を添えて、心臓の裏側に一か所だけ赤い痕を残す。
残した痕はすぐに消えても、僕の痛みは消えてくれない。
ゆっくりと奈月の背中から離れて膝立ちをし、ふるふると震える身体を俯瞰した。
「本気で嫌なときは、僕を蹴飛ばして逃げてほしい。今日は縛ったりしないから」
「たっくんの……いじわる…。そんなこと、できないもん…」
こんなにも成熟した身体で、幼子が拗ねたように言うギャップにも心を持っていかれる。
「じゃあ諦めて感じてもらうしかないよ。…めちゃくちゃにしてもいいって、言ったでしょう?」
「……やさしく…してね?」
「それは、奈月次第だ」
僕を泣かせるのも笑わせるのも、堕とすのも狂わせるのも、喜怒哀楽のほとんどは奈月の一挙手一投足によって動かされる。
「奈月のせいで僕はおかしくなったんだ。奈月だっておかしくなってくれなきゃ、不公平でしょ?」
届けるつもりのない声量でふと自分から零れ出た呟きに、自分自身で驚いた。
愛とは不公平なものなのだと知りながら、僕が想うのと同じ量の想いを返してほしいだなんて。
ただ、そばにいられればいい。
少しでも好きだと思ってもらえているのなら十分だった。
——はずなのに。
お伽話では、強欲の先にあるものは大抵が破滅だ。
これ以上願ってはいけないと自戒しながら、それでも手を伸ばさずにはいられない。
そうだ。どうせなら、一緒に狂ってほしい。
今だけだとしても。
「おしり、下がってるよ」
「や……」
おなかに手を添え優しく持ち上げて、四つん這いにさせる。彼女が恥ずかしがるところをよく観察できるように、奈月の足元の方に座り、てらてらと艶めく恥部を覗き込んだ。
「口でするのは駄目って言われたからね…。その分、指でしっかりと奥までほぐさないと…」
ぴたりと閉じたままの陰部のあわいを上下になぞって、左手の中指をゆっくりと沈めていく。
くぷ、と奈月の中に入っていく指が、熱くて柔らかい肉襞に包まれる。
「はぁッ……っン!」
根元まで埋めた指をしばらく止めて奈月の反応を確かめてから、そっと引いていく。
外に出てきた指は透明な液をまとい、きらきらと光って見える。
空気に当たるとヒヤッとするから、中の熱さがより際立つ。
もう一度、指を沈める。
ぷちゅ、とさっきよりも粘着質な音に変わった。今度はくにくにと指の関節を動かして、内壁を撫でる。
「ふ……ぅ、…ん…くっ…ッ」
折角の愛らしい声がくぐもって聞こえると思ったら、奈月がクッションに顔を埋めていた。
それならば、もっと沢山啼かせるだけだ。
少しずつ指の抽挿を速めて、内側のやわらかな襞をめくるように撫で上げる。
「んぅうッ…ふっ…ッン!…く、ふぅッ…っ!」
クッションの形が変わるくらいに強く抱きしめて、懸命に声を抑えている。
半端に酔っていると、かえって羞恥心が高まってしまうのだろうか。
ともすれば、堪えきれなくなった時の啼き声は、きっと僕を楽しませてくれるに違いない。
指を沈ませたままくるくると円を描いたり、愛液を外側に掻き出して陰部全体に塗り付ける。
二本に増やした指をくいくいと曲げるとその都度、ちゅこちゅこ…ぷちゅくちゅと淫猥な音を奏でてくれる。
まだ勝手に我慢大会をしているから、おしりや背中を撫でまわしていた右手を呼び戻して、陰核をツンツンとつついた。
「んぅッッ!!」
びくりと大きく腰が浮いて、きゅっと指が締め付けられた。
Gスポットを探り当て、二本の指でぐちゅぐちゅ音を立てながら刺激しつつ、ヌルヌルと滑りのいいクリトリスを高速で弾き続ける。
「やぁぁあンッらめぇッぇイクぃくっイっちゃうからぁぁあッッ!!」
とうとう息苦しくなってきた奈月がクッションから顔を出すと、今まで堪えていた分も一緒に吐き出しているかのように啼き出した。
「イっていいよ」
最奥まで押し込んだ指をぐりっとGスポットに押し込んでぷくりと膨れたクリトリスをシコシコと扱くと、大きな嬌声を上げながら奈月の身体が弾けた。
「ぁああっんッ……!!」
名残惜しさを感じつつ、うねる内側から指をちゅぽんと引き抜いて、潤滑ゼリーを男根に垂らす。
まだひくひくと痙攣している蜜口に擦り付けずにあてがい、先端をぐぷりと沈ませた。
「やらッ…まだ、イったばかり…なのに」
はひゅはひゅと必死に酸素を取り込む奈月を追い立てるほど急いではいない。
「大丈夫。ゆっくりするから、しっかり味わってみて?」
四分の一ほど差し込んだそれを、ゆっくりと引き戻す。
そして、またゆっくりと三分の一ほどまで沈ませる。
数回抜き差しを繰り返したところで、奈月が不安そうにこちらを振り向いた。
とはいえまだ目隠しをしているから、僕のことは見えてはいないけれど。
「ぁッ、たくや、くん…?」
「…どうしたの」
「いま…なにが、はいってるの…?」
奈月の質問に、悦びで心臓が軋んだ。
切ない時だけではなく、嬉しい時でも心の内側はぎゅと痛むのだと知る。
「なにが、入ってると思う?」
「たくやくんの、じゃ…ない、気がするの…」
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