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(公衆電話二)ネオン街、一月
ねえきこえてる受話器を通して、ねえこっちの音そうあなたの好きだった東京の音、今わたしネオン町三丁目の公衆電話からかけているから、ええ相変わらずよ土曜日の夜だからすごい人波、でもわたしは仕事だから、これからイルミネーションの海を人波をかきわけネオン街をよこぎって、オフィスのあるビルに、ええ元気よ、まだ少し時間あるからそれで電話してみたの、冬生まれ一月生まれのあなただから。
寒いけど折角だからネオン街をちょっと歩いてみようかしら、ぶらぶらとねえ宛てもなく何処までもひとりぼっちで、あの夜わたしが生まれて初めて新宿の風俗店の立ち並ぶネオン街の通りをひとりぼっちで歩いたように、そしてそこにあなたの姿を初めて見つけたあの時のように、今夜だってもしかしたら会えるかも知れないばったりと、え誰にって、だからあなたに、え何寝ぼけたこと言ってんだよ、うん確かに少し寝ぼけてるかもわたし、でも酔っ払ってなんかいないから大丈夫、だってねえどうしてもあの頃のあなたが今もそこにいる気がして、それにもしかすると今夜あたりちらほらと粉雪が舞い落ちるかも知れないし、そんな寒さの夜だから今夜はとぼとぼ歩いてみるわ、上手く辿り着けるかどうか分からないけれど、今夜みたいにいつ雪が降ってもおかしくない曇り空と凍り付くよな寒さと寂しさとでいっぱいだった、あの日あの夜へと。
五年前の冬一月の新宿、正月休みの明けた最初の土曜日の夜だったね、会員になって初めて訪ねたシクラメン、早速年末に届いた一回目の会員レターで紹介された男性会員二名の顔写真を拝見に、なんていうのは口実で本当はシクラメンから見える新宿の夜景が見たくてね、でも少し早めに着いたから東京摩天楼ビルの一階ロビーで時間潰ししていたら、ばったりまたあなたと顔合わせたね。
エレベータから降りてきたあなたはやっぱり小脇にチラシの束を抱えていて、咄嗟にもう覚えてないかな、わたしのことなんて無視されちゃうかなあって不安になったけど。
「あれ」
あなたはびっくりした顔で話しかけてきてくれたから嬉しくて、
「これから、シクラメン?」
尋ねるあなたに、
「はい」
素直に頷くわたし。
「やっぱ会員さんでしょ」
「ほやほやです」
あなたは違うんですかって聞き返したかったけれど、何だか怖くて出来なかった。
あなたの抱えるチラシの束をちらっと見て、シクラメンのものだと分かって。
「どうするんですか」
「配るの」
配る、あそうか駅前とかで配るのかなるほど、でも寒いだろうなだってこんな真冬なのに、あなたは十二月初めて会った時とまったく変わらない薄手の紺のジャンパーだけ。
「大変ですね」
「なあに、バイトのついでだから」
ついで、バイトの?
「こっちはボランティアだから」
ボランティア、はて意味不明、とに角何かアルバイトしているらしいのは確か、どんなバイトなんだろう、でもやっぱり聞けなかった聞くのが怖かった、薄汚れた薄手のあなたのジャンパーが気になって。
「じゃね」
え、黙ってるわたしにあなたが別れを告げた時、なぜか急に寂しさがこみ上げてきて。
「今から配るんですか?」
慌てて引き止めたね、も少し一緒にいたいって思ったのかそれとももう会えないかも知れないなんて気がしたからなのか。
「ああ」
「何処で配るんですか?」
なおもしつこく聞いたねわたし、次のあなたの答えがわたしの人生を大きく変えてしまうとも知らないで、あなたはぼそっとこう答えた。
「ネオン街」
ネオン街。ふっと、十二月シクラメンの窓から遠くに見えたネオンライトの連なりを思い出したわたし、それからあなたのあの言葉。
「丸で永遠に続く夜空の星のようさ」
そうだ、そういえばお礼言わなきゃ。
「夜景、見ましたよ」
「夜景」
「シクラメンから見える夜景」
「ああ、な凄いだろ」
「はい、とっても感動しました」
感動だなんて何だか子供っぽい答えに我ながら恥ずかしくなって、でもあなたは嬉しそうに笑ってくれた。
ふとどんな人なんだろうあなたって気になって、結婚相談所シクラメンのチラシをバイトのついでにボランティアでネオン街に立って配っているあなた、普段毎日何して生きてるんだろう、何を思い何を夢見てなんてね、そんなこと思いながら、
「でも寒くないんですか」
「平気平気、俺寒いのは得意だから」
「得意」
「北の方の生まれなんだ」
北、北の方の生まれ、何処なんだろう、だけどこれもやっぱり聞けなかった。その代わり、
「何処なんですか、ネオン街って」
「ネオン町三丁目の通りさ」
ネオン町三丁目っていうと日本でも有数の歓楽街、でもその時わたしはここからその場所への行き方すらまだ知らなかったね。
「じゃ今度こそ行くから、そっちもがんばれ」
元気に手を振って歩き出すあなた。
「うん」
頷いたわたしなど振り向きもせずにさっさとビルの玄関の自動ドアを抜け風のように立ち去ったね。
気付いたらもう日暮れ、エレベータで一路シクラメンへ、無人の受付の白いシクラメンの鉢植えはまだきれいに咲いていてチャイムを押すとしばらくして現れたのは福森のおばちゃんじゃなくて初めて会う早川美樹さん、わたしより年下の妹みたいな感じの子、おばちゃんに会えるつもりで来たから何だか裏切られた気分で、
「紹介を受けた、男性会員さんの検索をしたいんですが」
用件を伝えると、専用の個室に案内され、
「初めての検索ですよね、それでは簡単に操作方法をご説明します」
にっこり微笑んだ美樹ちゃんは丁寧に教えてくれてわたしは直ぐに操作法をマスター、美樹ちゃんが個室を去ると早速お相手のお顔拝見。
ひとり目、ふたり目、うーん両方ともなんか違う、ちょっとがっかり、個室の白い天井を見上げながらふうっとため息を吐いて、今頃わたしこんな所で一体何をしているんだろうなんて自己嫌悪、ぼんやりと窓に目を向けるとそこにはもう夜、うわあ、すうっと気持ちが軽くなる気がした、そこにはもう新宿の夜景が広がっていてね、ビルの灯り家々の灯りは勿論、向きを変えれば駅と駅周辺の商店街の灯り、そして見える見える駅の向こうにネオンライトの瞬き、あそこがあなたの言ってたネオン街ね、夜景に見とれているうちに何だかじっとしていられなくなってどうしても行ってみたくなっちゃったのわたしネオン街、あなたのいるネオン町三丁目へ。
今日は収穫なかったし、せめてネオン街に行ってあなたの姿を見たい、気付いたらエレベータの前、それから一階の玄関の自動ドアを抜けビル街を風のように歩いていたの、木枯らしも寒さも気にはならなかった。
まず新宿駅に引き返して、地下道に下りてネオン町の出口を捜してきょろきょろ、凄い人波の中何とか出口に辿り着き、地下道を上って再び地上へ、街はもうすっかり夜、信号を渡り人込みに揉まれながらイルミネーションの波をネオン街の方角へとひたすら歩いた、遠い場所からでもネオンライトの光が眩しく瞬いているのが見える、しばらく歩き続け角を曲がると突然そこには一面ちかちか瞬くネオンライトの海が広がっていたの。
良かったやっと着いた、ネオン街の通りで直ぐに目についたのはティッシュ配りの女の子、寒いのにミニスカート、膝小僧につぶつぶ鳥肌を立て一生懸命ティッシュを配ってた、ところがその子に尋ねるとそこはまだネオン町一丁目とのこと、ついでに三丁目の場所を教えてもらってしばらくネオンの通りを歩き続け、やっと今度こそ辿り着いたネオン町三丁目。
お目当てのあなたは何処だろうと、きょろきょろと忙しなく見回してみたの、通りの両側には風俗店と思われる店が建ち並んでいて、通りには客を呼び込む男、店の女の子たち、絶え間ない通行人、ぼけっと突っ立つ人、ティッシュやチラシを配る人、看板を持った人、様々な人の姿をネオンライトが照らしていたね、その中ではっと気付いた。
あれ、もしかして看板を持った人って、あなたじゃない、じっと見つめ確かめる、やっぱり間違いない、とうとうネオン街にいるあなたを見つけた、あなたは人の行き交う通りのまん中で看板を抱いてチラシを配っていたね、チラシはシクラメンのかな、こんな所で結婚相談所のチラシを配ったって受け取る人なんていないだろうに、遠くからでは良く見えないから恐る恐る近付いてみようかとも思ったけれど、妙に緊張して歩き出せなかったから結局通りの隅から身を隠すように、そっとあなたの様子を見ていた。
あなたが持っている看板は、風俗店の派手な看板だったね、もしかしてバイトってあれかな?
『憩いのひと時、アカシアの雨』
看板にはそう書かれてあった、アカシアの雨、結婚相談所シクラメン、そしてここは新宿区ネオン町三丁目、行き交う人は誰もあなたの看板になど目もくれずに通り過ぎてゆくだけ、寒いの得意だなんて言ってたけど、あなたは手袋さえもしていない、強がり言っても吐き出す息はちゃんと白いくせに。
やっぱり寒いのか、あなたは時々休んで凍えた手のひらに息を吹きかけ温めていたね、そんなあなたの様子に、寒いのに大変だな大丈夫なのかしらって心配したり、でも時折声を掛けてくる人たちと楽しそうに談笑する姿にわたしまで楽しくなったり、わたしだって寒くて足の裏なんか氷が張ったみたいでがたがた体全体震えていたけれど、あなたのことずっと見ていたかった、なのにそんなささやかな願いが丸でマッチ売りの少女のマッチの夢が吹き消されるように、突然現実に引き戻されたね。
通り掛かりのひとりの中年男性が、いきなりわたしに声を掛けてきた。
「おねえちゃん、ホテル行かねか」
ええ、見ると酔っ払い、男性はしつこく絡んで離れない。
「なあいいだろ、あんただってそのつもりでこんなとこ突っ立ってたんだろ」
確かに場所悪かったかな。
「お互い寂しい者同士、仲良く慰めあおうぜ」
ぜって寂しくなんかありません、ひたすら無視していると相手は遂に実力行使、わたしの腕をぎゅっと捕まえ、
「ほらもたもたしてねえで、さっさといくべ、ねえちゃん」
わたしの体を強引に引っ張ろうとする、止めて下さいって叫びたかったけれど怖くて声も出なくて心臓どきどき、逃げることすら浮かばずただおろおろ込み上げてくる涙をこらえるばかり、通行人はじろじろ見ているだけで誰も助けようとはしてくれないし、わたしはショックの余り目の前がまっ暗になって、このまま男の思うままにされちゃうのねなんて気絶でもしてしまいそうなその時、あなたの声がしたね。
「その子、うちの店の子なんで」
え、気付いたら目の前にあなた、アカシアの雨の看板抱え。
「なんだと」
興奮した酔っ払いは捕まえていたわたしの腕から手を離しじっとあなたの顔を睨み付ける、その隙にわたしはあなたの背中に隠れて、その時つかまったあなたの背中暖かかった、あなたは男に対して少しも動じず黙ったままじっと突っ立っているだけ、すると男の方はびびったのか、
「何だ素人かと思ったらプロかよ、道理でくせえ女だと思った」
捨て台詞を残しさっさと通行人に紛れ消えていったね。
ふっと木枯らしが吹き過ぎていった、ネオン街のネオンの瞬きが目にしみた、まだ震えているわたしにあなたは、
「大丈夫?」
あなたの声やさしかった、けど少し笑ってたね、大丈夫なわけないでしょうって言いたかったけど何も言えなかった、ただ黙って首を横に振るわたしに、
「気にしない気にしない、ここら辺じゃ良くある話、だってネオン街だぜ」
ネオン街、ここはネオン街、そうねここはそういう場所なんだよね、あなたの顔見つめ返したらあなたの吐く息が白くてそれがたまらなく悲しい気がして、その時ずっとこらえていたわたしの涙が頬を伝って零れ落ちたね、その時わたし思い切り泣いた、泣き続けた、人前であんなに泣いたのなんて何年振りのことだろう、あなたはそんなわたしを黙って見守っていてくれたね、泣き終わった後ふっとわたし楽になれた気がしてね、いろんなことが今までより少しは楽に生きられるようになれるかも知れないって、人に対してもね。
「俺もう少しでバイト終わるから」
そう言い残すとあなたはわたしを置き去りに、再び通りのまん中へと戻った、でもさっきまでとは微妙に違うふたりの関係、わたしは通りの外れでひとり涙を拭いながらあなたを見ていた、もう怖くなかった、誰に声を掛けられても平気、だってあなたがいてくれるから、あなたが直ぐそばにいてくれるから、そんな気がした、シクラメンのチラシを配り終わったあなたは、今度はアカシアの雨の看板の棒を両手で握ると看板を高く上げながら、通りを行ったり来たりしていたね。
午後八時過ぎ、誰かがあなたの隣に現れあなたから看板を受け取った、もしかしてバイトの交代なのかな、それで直ぐにわたしの所に来てくれるかと思ったらあなた、そのまま何処かへ走り出したね、あれ何処行くんだろうって見送ったら、あなたは通りの端のビルに姿を消して、見るとそのビルの看板の中に確かにアカシアの雨の文字、あ、あそこに店があるんだって眺めていると、あなたは直ぐにビルから出てきたね何かを背負って、そのままあなたはわたしの前に戻ってきてくれた。
あなたが背負っていたもの、それはギターケースだった、中には白いフォークギター、白いといっても自分でペンキで塗ったみたいな、もう随分古くて何度も何度も修理しながらずっと使い続けているそんな感じの。
「ギター?」
「ああ、いつもここらで唄ってんだ」
「ここらで?」
あなたは当たり前みたいに頷いて、
「来る、それとももう帰るかい」
わたしに聞いたね、その時わたしもう今夜は時間の許す限り、終電なら二十三時過ぎてもまだ大丈夫そう、あなたに付き合おうって決めていたから、歩き出すあなたの背中に黙って付いていったね。
ひとつ角を曲がるとまだネオン街は続いていたけれど、通りのまん中に四方を低いオレンジ色のブロック塀で囲まれた四角い小さな広場があって、その中央に時計台があったね、あなたは広場の前に来るとブロック塀の端にいきなり腰掛けてギターを構えたね、え、こんな所で本当にギター弾いたり唄ったりするの、だって凍り付くほど寒いのにそんな薄手のジャンバーに手袋なしなんて、わたしは隣でぼけっと突っ立ったまま、あなたはそんなわたしなんかお構いなし、ポロローンとギター爪弾き唄い出したね。
「この夜の何処かで、今もきみが眠っているなら、この夜の何処かに、今きみはひとりぼっち寒そうに身を隠しているから、今宵も降り頻る銀河の雨の中を、宛てもなくさがしている、今もこの夜の都会の片隅、ネオンの雨にずぶ濡れに打たれながら、膝抱えさがしているのは、きみの夢。
幾数千万の人波に紛れながら、路上に落ちた夢の欠片掻き集め、きみの笑い顔を作って、都会に零れ落ちた涙の欠片の中に、きみの涙を見つけ出せば、今も夢の中で俺をさがし求めるきみの姿が見えるから。
この夜の何処かに、今もきみが眠っているなら、この夜の何処かで、今きみが見ている夢見つけ出すため、この夜の無限の闇の中で唄っている、今はただ唄っているだけ、きみの夢に届くまで」
通りでは素通りする人、立ち止まる人、中にはじっと立ち止まってしばらく耳を傾けている人も、あなたは人のことなど無関心で唄い続けたね、白い息吐き吐き、ポロローン。そして唄い終わるとあなたは、
「ふう、さみっ」
凍える指に息を吹きかけたね、思わずわたし吹き出しちゃった、やっぱり痩せ我慢してたのかなって。そしたら、
「今夜はもう帰ったら」
っていきなりあなた。だから、
「えっ」
急に寂しさが込み上げてきて、わたし帰りたくないって口にしようとしたけど出来なかった。その代わり、
「うん、そうする」
小さく頷いていたね。
「駅まで送るよ」
「大丈夫、もう平気」
道も分かると思うし。そしたら、
「また変なやつに絡まれても、知らねえぞ」
「あ、そうか、こわーい」
結局新宿駅まで送ってもらったね、駅までの道を人波に揉まれながら、ふたり黙ったままで歩いたね、けれど心は満たされていた、いつまでも歩いていたい、いつまでもいつまでも眠らない新宿のネオンの街を夜が明けるまであなたと歩きたい、そんな思いでいっぱいだったあの夜、ネオン街の人波はまだ絶えることなく続いていたね、これがわたしが生まれて初めてあなたと過ごした新宿ネオン街の夜だったね。
ねえきこえてる、ねえこっちの音受話器を通して、今も変わらないネオン街の鼓動聴こえるでしょ、ここに来るとこの人込みの中に身を置くとどうしてねえ、こんなにいつも元気になれるのかしら、え生意気、五年前べそかいてたやつが、そうね五年前あんなに子供だったわたしが今こうしてすっかり大人になれたのは、あなたのお陰だものね、俺じゃないぞって、あなたじゃなくてここネオン街そうね、この街のせいだね、いつもたくさんの人がやって来て、いつもいろんな人でごちゃごちゃで、いつもたくさんの人を飲み込みたくさんの人の夢と希望と絶望とそして悲しみ痛みを包み込んで、それでもなお煌き瞬きながら流れ続けるこのネオン街、ネオンの河。
もうそっちはすっかり雪に埋もれている頃ね、家も車も町も船も港も、雪はそして凍り付く北の寂れた港町の海にも舞い落ちているかしら、そういえばあなた、どうして雪が海にも降るのか不思議がっていたわね、海に融けたら直ぐ水に還ってしまうだけじゃないか、だったらわざわざ雪になんか生まれてこなくても良さそうなものを、だけど例えば人の心の寂しさもひとひらの雪のようなもので寂しさは寂しさを求めてやって来る、この都会の寂しきネオンの海へと集まってくるように、集まって融けてゆくように、だったら寂しさなんてわざわざ寂しさとして生まれくる必要もないじゃないかなんて、それじゃあんまりつれないじゃない、ねえこの東京新宿ネオン町三丁目のネオンの波の波音は人のさみしさにあんまり似合い過ぎて、だから今夜もわたしはこんなネオン街のまん中の公衆電話ボックスの果てからあなたへと電話をしてみました。
凍り付くよなあなたの町の海の音、砕け散る波の音が聴きたくて、絶え間なく降り頻る雪の音、聴こえない海に融けてゆく雪の音なんかも受話器を通せば、あなたの受話器の向こうからだったなら聴こえてくる気がして、今夜もわたし電話してみたの、今夜三十五歳の忘れてたでしょすっかり、三十五回目のあなたの誕生日だったから。
いやだ、また無言電話になっちゃったね、御免なさい、何だか今夜は愚痴になりそうだから、これくらいで切るね、もしもし、じゃおやすみ、やっちゃん。
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