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(一・三)宇宙の旅
でも誰も健一の声に気付きませんでした。家の中はしーんとしています。ノートパソコンの画面が眩しく光ったのは、一瞬のことでした。今はもう眩しくはありません。
「あゝビックリしたなあ」
健一はため息を零しながら、もう一度画面をよーく見ました。すると画面の中央に何かが映っています。健一は目を凝らしました。ひとつの青い球体……。
画面の中央に映っているもの、それは地球でした。青くて丸い、それは美しい地球だったのです。でも絵や写真ではありません。なぜなら画面の中の地球は、回転していたのです。どうやら動画のようですね。
「変なの、なんで地球なんか?お父さんの趣味?」
健一は不思議に思いながら、しばらくじっと見ていました。
すると地球はどんどん小さくなっていきました。そして画面はまた段々と暗くなっていきました。でもまっ暗ではありません。なぜなら星空のように、きらきらとたくさんの星が瞬いていたからです。
「うわーっ、きれい」
地球はもうすっかり小さくなって、遠いひとつの点にしか見えません。健一は星空の映像に見入りました。きらきらと天の川も流れていきます。ノートパソコンの画面が、ちょうど宇宙ロケットの窓のようではありませんか。これから宇宙旅行に旅立ってゆく。そんな気分で、健一はワクワクしてきました。
画面は既に太陽系を遠く離れ、天の川の中をどんどん進んでゆきます。美しい星々の瞬きに、健一はすっかり見とれてしまいました。そして画面は遂に、わたしたちの銀河系からも遠ざかってゆきます。写真や図鑑で見た、あの美しい銀河系の渦巻きが、今ノートパソコンの画面いっぱいに広がっています。
あゝ、何て美しいんだろう。
健一はあまりの美しさに息を飲み、ただじっと見つめるばかりでした。でも画面はさらにどんどん宇宙の彼方へと進んでゆきます。一体何処まで行くのでしょうか?画面は無数の星々の中を、どんどん通過して行きます。美しい、この世のものとは思えない、緑、赤、青、黄色、金、銀、色とりどりの星景色です。このままずっと宇宙の果てまで行くのでしょうか?
何だかそんな気がしてきました。なぜなら段々と星の数が減って、画面が少しずつ暗くなって来たからです。これではまたまっ暗になってしまうかも知れません。辿り着くのは宇宙の果てか、ブラックホールか?
いやだなあ。健一は不安になりました。でも予想した通り、とうとう画面はまっ暗になってしまいました。
「あーあ」
健一は思わずため息を吐きました。でもまっ暗は、永くは続きませんでした。直ぐに別の何かが映ったのです。しかも今度は、星や地球ではなく、人の顔でした。
「ええっ」
健一はびっくりして、画面をじっと見つめずにはいられませんでした。そこに映っているのは、今まで見たことのないひとりのおじいさんでした。画面一杯におじいさんの顔のアップ。おじいさんはふさふさの白い髭を生やし、頬っぺたはふっくらとしていました。着ている服は赤ではありませんが、サンタクロースの服に似ていました。雪のように白い服の、白いサンタクロースとでも呼べばいいでしょうか?
そしておじいさんはにっこりと、健一に向かって微笑みかけたのです。
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