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(一・四)かなしみさま登場
健一はビックリ!
何が何だかわけが分からず、健一は画面の前で固まってしまいました。でも恐くはありません。おじいさんの顔はとてもやさしそうだったからです。決して悪い人には見えません。だからお父さんやお母さんに、助けを呼ぼうとは思いませんでした。
画面の中のおじいさんは、健一に向かって話し掛けてきました。
「健一くん、こんばんは」
ええっ。再び健一は、目を丸くして驚きました。
健一くんって……。どうしてこのおじいさん、ぼくの名前を知っているんだろう?ぼくはこの人のこと、何にも知らないのに。
でもやさしそうな笑顔と同じように、おじいさんの声もとてもやさしそうな声でした。それに相手はノートパソコンの画面の中です。
時計を見ると、もう午後十時近くになっていました。ということは星と宇宙の映像だけで、三十分以上見ていたことになります。お父さんたちはもう眠っているに違いありません。もしかしてお母さんはまだ起きているかも知れませんが、きっと用事があってのこと。ここは誰にも心配かけずに、ぼくひとりで何とかしなきゃ。
健一は思い切って、おじいさんに返事をしてみることにしました。ノートパソコンの画面に向かって、恐る恐る答えました。
「こんばんは。でもあなたは一体、誰ですか?」
おじいさんは答えました。
「わたしかね?」
おじいさんはやっぱり健一に向かって、にこにこ笑い掛けています。
「もしかして、サンタさんですか?」
健一は期待を込めて尋ねました。するとおじいさんは、いきなり大きな声で笑い出しました。
「ハッハッハッハッハ」
健一はビックリ。でも健一も何だか、嬉しい気持ちになってきました。おじいさんは笑顔のまま答えました。
「残念。はずれだよ、健一くん」
ありゃりゃ。健一もがっくり。でもじゃ、誰なんだろ、おじいさん?
「じゃ、あなたは誰なんですか?」
再び尋ねる健一に、おじいさんはとても真剣な顔になりました。画面の向こうからじっと、健一を見つめています。そしておじいさんは、ゆっくりと答えました。
「わたしはね、かなしみさまだよ」
「か・な・し・み・さ・ま?」
「そうだよ」
「変な名前……」
ついぽろりと、健一はこぼしてしまいました。
それに自分に「様」を付けるなんて、やっぱり変なおじいさん……。
健一は笑いたいのを我慢しながら、またおじいさんに問いました。
「そのかなしみさまが、一体ぼくに何のようですか?どうしてお父さんのパソコンの中に、いるんですか?」
「実はね」
かなしみさまの顔に笑みはなく、真剣な表情のままでした。それどころか名前の通り、かなしそうな表情にさえ見えます。健一は段々と心配になってきました。大丈夫かな、かなしみさま?
かなしみさまが、続けて答えました。
「健一くんに、見せたいものがあるんだよ」
「ぼくに見せたいもの?」
それは何ですか?そう健一が尋ねるより先に、ノートパソコンの画面が、またまっ暗になってしまいました。つまりかなしみさまの顔が消えてしまったのです。
「あれっ?かなしみさま、どこ行っちゃったの?」
健一は思わず部屋の中を見回しました。けれどかなしみさまの姿も返事も、何もありません。その代わりノートパソコンのまっ暗な画面の中に、少しずつ何かが見えてきました。同時に物凄い音も、聴こえてきたのです。
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