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(一・八)貧困
替わった画面の中では、ひとりの男の子が泣いていました。東南アジアのどこかの国の田舎で暮らす男の子です。
「この子、どうして泣いてるの?」
健一はかなしみさまに尋ねました。かなしみさまはさっきから姿は見えず、声しか聴こえません。
「ねえ、かなしみさまってば」
するとかなしみさまの声が、どこからか返ってきました。
「その子はね、食べるものがなくて、いつもお腹を空かしているんだよ。ほら、とっても痩せているだろ。健一くんと同い年なのにね」
健一はビックリして言いました。
「えっ、ぼくと同い年?確かに痩せてるね」
健一は画面の中の少年をじっと見つめました。相手の少年も、じっとこっちを見ているような気がしてなりません。
「でもどうして、食べものがないの?」
「どうしてかと言うとね、健一くん。その子のお父さんもお母さんも、それは毎日一生懸命働いているんだよ。でもね、その子の国自体がとても貧しいから、子どもたちに満足な食べものを、買ってあげられないんだよ」
「そうなの?かわいそう」
「見てごらん、この子だけじゃないよ」
画面は少年のいる部屋全体を映し出しました。そこには少年の家族がいます。お父さん、お母さん、少年の弟と妹。確かにみんな、痩せていました。そして少年も弟も妹も、みんな泣いています。そんな子どもたちの姿を、お父さんとお母さんが、それはかなしそうに見ているではありませんか。みんなの食卓の上には、家族分のバナナが一本ずつあるだけです。少年の家族はそれだけで、今日一日を生きなければなりません。
「えっ、バナナだけ?嘘でしょ?」
健一は胸がつまって、とても見ていられなくなりました。
ぼくたち家族はさっき、あんなに美味しいご飯とケーキをお腹いっぱい食べたのに……。どうして、豊かな国と貧しい国があるの?
健一の頭の中は、今や疑問符だらけです。戦争や紛争にしたって、そうです。
ぼくの周りや日本はずっと平和なのに、どうしてほかの国では戦争が起こるんだろう?
健一はそのことを、かなしみさまに聞いてみようと思いました。けれどそれより先に、かなしみさまが言いました。
「健一くん。この子の家やその周りを、よーく見てごらん。大変なのは、食べものが足りないだけじゃないんだよ」
「ええっ」
健一はかなしみさまに言われるまま、画面に映し出される少年の家の中と、少年の住む街の様子を眺めました。
「あれっ、かなしみさま。トイレとお風呂はどこ?」
「よく気が付いたね、健一くん。この家にはね、実はどっちもないんだよ」
ビックリする健一。どっちもない……って?
トイレは家の近くに、近所の人たちみんなが使う共同トイレがあるだけです。ではお風呂はどうしているのでしょうか?実はお風呂というものはなく、近所の人たちもみんな、近くの川で体を洗っているのです。
健一はビックリしつつ、自分の家と比較しました。
本当にぼくは恵まれている。ご飯はお腹一杯食べられるし、トイレだってお風呂だって、何の不自由もなく使いたい時に使えるんだから。それに比べて、この少年や家族や周りの人たちは、こんなに苦労している。どうしてこんなに、いろんなことが違うんだろう?国や場所が違うだけなのに……。
健一はまた、大きな疑問を抱かずにはいられませんでした。
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