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(一・一)クリスマスイヴ
(プロローグ)
かみさまは、かなしみさま……。
(一・一)クリスマスイヴ
小学校五年生の健一は十二月二十四日の夜、つまりクリスマスイヴに、ひとりの不思議なおじいさんと出会いました。
健一は海野健一と言います。
海野家はお父さんの保雄とお母さんのひろ子、そして健一と妹の小学三年生の洋子の四人家族です。近所に、おじいさんの富三郎とおばあさんの菊江の老夫婦も住んでいました。
お父さんはまじめで、口数の少ない人です。けれど子どもたちの前では、お母さんにちょっと威張ったりします。亭主関白なところを、見せたいのかも知れません。
「おい、ひろ子。爪楊枝取ってくれ」
「いやだ、お父さん。目の前にあるでしょ?」
「そうか。じゃお茶だ、お茶をくれ」
「さっき、お腹一杯飲んだでしょ?そんなに飲んでばかりいると、おねしょするわよ」
「するわけないだろ、この歳になって」
顔をまっ赤にして怒るお父さんを、健一も洋子も笑いを堪えながら見ています。
かっこ悪い、お父さん……。
いつもお母さんの方が、一枚上手のようです。
今夜はクリスマスイヴ。
晩ごはんの後、家族みんなでクリスマスケーキを食べていました。健一がちょうど、ケーキを食べ終わった時のことです。それまでお笑い番組を放送していたTVから、突然ニュース速報が流れて来ました。
「何だろうなあ?」
「何かしら?折角のクリスマスイヴなんだから、嫌なニュースじゃなきゃ、いいけど」
「こんな時は、嫌なニュースに決まってるだろ」
文句を言いながらも、不安そうなお父さん。家族みんなで、TV画面に注目します。画面の中ではアナウンサーの綺麗なお姉さんが、深刻そうな顔で原稿を読み上げました。
「先程、中東の小国イラクェートンで戦争が始まりました。米英を中心とする多国籍軍による、同国への攻撃が、遂に開始されたのです」
イラクェートンとは、中東のイラクとイランとクウェートに挟まれた小さな国で、石油がたくさん採れる所です。そこで戦争が始まってしまいました。
そのニュースにお父さんもお母さんも、妹の洋子までもが興奮しています。
「とうとう始まったか?」
「どうなるのかしらね?」
洋子は今にも泣き出しそうです。
「イラクェートンの子どもたちが、可哀想」
ところがそんな中でたったひとり、健一だけが黙っていました。なぜかというと健一は、正直あまりピンと来なかったからです。イラクェートンなんて遠い国のことも、そこで今起こった戦争のことも……。
日本では、永く平和が続いています。そのため日本人の多くが平和に慣れて、戦争への関心が薄らいでいます。健一もそんな日本人の中の、ひとりなのです。そんな健一を洋子がからかいます。
「なに、ぼけっとしてんの、おにいちゃん。戦争が、始まったんだよ。何も感じないの?」
「えっ?」
「ほんと、平和ボケなんだから。おにいちゃん」
平和ボケだと……。健一は悔しくてなりません。
「違うよ、ぼくだって……」
しかし洋子に言い返す言葉が見つかりません。洋子の言った通りだからです。
「ゲームばかりやってないで。おにいちゃんも少しは、海外のことに関心を持った方がいいよ」
「なにーーっ」
悔しさのあまり、握りこぶしをブルブルと震わせる健一。でもやっぱり、何も言い返せませんでした。ありゃりゃ。
くっそーっ。洋子のやつ、今に見てろよ!
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