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人魚と人間
全ての生き物は、皆、海から生まれた。
小さな、まあるい細胞から微生物となり、何億年という時の流れの中で、生物は二つに分かれた。
足が生え、陸を歩く人間と、尾びれが生え、海の中で泳ぐ人魚に。
神様は、人間と人魚が、共存てきるように、3つの決まり事を作った。
1つ、同じ言語を使うこと。
2つ、海で縄張り争いしないこと。
3つ、種別を超えて愛し合わないこと。
しかし、ある日、人間は海を自分達の物にしてしまった。
そして、約束を破った人間は、人魚に絶縁された。遠い遠い、昔の話──。
「それで、人間達は、もう海には近づかないの?」
マデリーンは、翠の透明な瞳を、幼馴染のルースの開いている古びた本へ向けた。
「神様が、戒めを作った。人間が、この海に入ると、足を失って人魚になる。彼らは大地を踏みしめることができる足を失いたく無い。だから海辺には近づかない」
「じゃあ、人魚は?海から出たらどうなるの?」
「知らないのかい?マデリーン。人間のように足が生えるんだ。そして、人魚には戻れない。多分ね」
ルースの言葉に、思わず自分の七色に輝く尾びれを、マデリーンは撫でた。
「何?人間に興味、持ってるの?」
ルースは器用に尾びれを動かして、本棚へ向かい、古びた本を仕舞った。
「僕たちは、もうすぐ婚礼の儀式を、挙げるんだ。人間の話なんて、無しにしよう?」
マデリーンは小さく頷くと、本棚の上に飾られている金色の髪をした、幼い女の子の写真に目をやった。
「婚礼の儀式……ルースの妹さんにも見せたかったね……」
「そうだな」
子供の頃起きた大きな嵐で、流されてしまった妹を思い出し、ルースは寂しげに俯いた。
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