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海辺にて
「何か羽織ってくるんだった、意外と、海風は冷える」
寒さに震える兄を見て、サマンサは、大きな瞳を細めた。
「ヨシュア兄さん、私のマントを貸しましょうか?」
「赤いマントなんて、男の俺が、羽織れる訳ないだろ?」
「じゃあ、もう帰る?」
いや、と、ヨシュアは、言うと、再び、波打ち際に目をやった。
「人魚の鱗は、海辺でしか手に入らないからね」
二人は、人魚の鱗と呼ばれる、真珠貝を拾いに海へ来ていた。
太陽に照らされてキラキラと輝く様が、まるで人魚の尾びれの鱗の様に見える事から、人魚の鱗と、呼ばれていた。
人間達の間では、人魚は真珠を食べ、そして、食べ残った真珠貝が浜辺に流れ着くと言われていた。真珠貝は、主に螺鈿細工の材料となり、工房へ売ると良い実入りになった。
「人魚め、まだ真珠を食べてないのかな?」
「ふふふ、いっそ、海へ潜って、真珠を採った方が、お金になるのに」
「サマンサ、知ってるだろう?人は、海へ潜ってはならないってことを」
「迷信よ」
クスッと笑ったサマンサに返事をするかのように、ピチャンと、何かが、海で跳ねた。
「ん?サマンサ、どうした?」
波打ち際を覗き込んでいたヨシュアが訊ねた。
「沖で何かが、跳ねたの」
「人魚かな?」
「まあ!人魚だなんて!」
二人は笑い合った。
突き出た岩影へ、とっさに身を隠したルースが、吹き出していた。
「ふん、真珠を食べるだって?笑わせるな。人間は浅はかだな。さてと帰るか」
ルースは、ザブンと海へ潜ぐり、住みかへと戻っていった。
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