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探し物
「やっぱりない……」
何度も海の底に潜るが、探し物は見つからない。
マデリーンは、再び少し離れた場所へ潜った。
「何してるんだい?」
ビクンと体を震わせて振り返れば、ルースがこちらを見ている。
「あ、ルース、海の魚達を観察してたの」
マデリーンは、とっさに嘘をついていた。
「ふぅん、くれぐれも浜辺には近よらないで、人間がいたから……」
「人間を見たの?」
「あぁ、海に入れない奴らは、砂浜で真珠貝を探していた」
ルースはふんと、鼻を鳴らした。
「一緒に帰ろう、マデリーン」
「もうすこしだけ。月明かりに照らされたクラゲ達が輝くのを見たいから」
「分かったよ、気をつけて」
ルースに手を振り、見送ると、マデリーンはまた潜り直した。
探している、真珠のイヤリングは、成人した女性の人魚に代々受け継がれる大切なもの。
そして、婚礼の儀式に、花嫁は、その受け継いだ真珠のイヤリングを身につける決まりがある。
こんなに探しても見つからないなら、もう、砂浜に打ち上げられたのかもしれない。
「どうしよう。ルースにも……」
マデリーンは首を振った。
「大丈夫、ちょっとだけだから」
マデリーンは、七色の尾鰭を翻すと、月が輝き始めた夜空を見上げながら泳ぎだした。
海面から顔を覗かせると、寄せては返す波の音が、鼓動のように感じられ、抱く不安を癒してくれた。
マデリーンは辺りを見渡した。人魚は眠らないが、人間は夜になれば眠るという。もう、夜だから、人間は居ないだろう。
尾びれを器用に動かして、波打ち際を少しずつ移動しながら、イヤリングが落ちていないか目を凝らした。
「何を探してるの?」
いきなり真上から降ってきた声に、マデリーンの鼓動は止まりそうになった。
(人間の男だ!)
マデリーンの視線に合わせるように男は、砂浜にしゃが込み、ニコリと笑っている。
「初めまして。人魚さん、だよね?」
マデリーンは、黙ったまま、尾びれを海へと沈ませていく。
人間に会ってはいけない。会えば逃げなければいけない、幼い頃から、そう教え込まれていた。
「待って、コレ探してたんじゃない?」
男は、波打ち際ギリギリまで近づくと、マデリーンに真珠のイヤリングを差し出した。
「あっ……」
マデリーンは、思わず、差し出されているイヤリングを受け取っていた。
「さっき見つけたんだ。君、名前は?僕はヨシュア」
「私は……マデリーン」
「マデリーン、いい名前だね」
綺麗な海のような青い瞳が細められ、マデリーンの心臓は、何故だが騒がしくなる。
「また会える?」
ヨシュアの言葉に頷くと、マデリーンは海へ潜った。
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