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決意
ヨシュアは、朝一番で店の扉を叩いていた。
「なんだ?こんな朝っぱらから。今日は休みだろ?」
寝ぼけ眼を擦りがら、親方は愚痴る。
今日は聖ラドニスの日で、店は休みだった。
嵐を静めようと、皆の為に生け贄として海へ自ら飛びこんだラドニスを称える日は、船乗り達の間では、忌み日とされ、船出はもちろん、あらゆることを休む日とされていた。
「話があるんです。人魚のことで」
「いいかげんにしろよ」
親方は、酒臭い息を吹きかけてきた。
「人魚を、捕まえたんです。でも、陸にあげたら尾びれは、人間の足に変わって、人間の娘になったんです。親方、お願いです。その娘を差し出しますので、サマンサを、自由にしてください」
ヨシュアの訴えに、親方は、はははと、大きく笑った。
「そんな虫の良い話があるかっ!娘ったって、おめぇのところの、サマンサは、上玉だ。それを、越えるのか?!」
「親方、涙が、真珠に代わるんです……」
ヨシュアの言葉に、親方の表情が一変する。
「おめぇ、誰から聞いた?」
「え?」
人魚は、真珠の涙を流す。
今では一部の船乗りしか知らない、昔の伝説だった。
「本当だろうな?嘘なら借金は倍だ、サマンサも、通いじゃなく、店の女になってもらう。分かったな?」
「わかりました……」
ヨシュアは生唾をごくりと飲み込んだ。
「明日、店が開く前に若い者を迎えにやるから、その娘を渡せ、分かったな」
バタンッと乱暴に締められた扉の前でヨシュアはしばらく立ちすくんだ。
(僕は明日、マデリーンを売るんだ……)
ヨシュアは、固く拳を握りしめた。
※※※
その頃、ルースは海の底で、心当たりの場所を片っ端から訪ね、マデリーンの行方を探していた。
(マデリーン、どこへ行ったんだ?)
ふと、嵐の日に流され生別れになった、妹のことを思い出した。
(もしかして、外海へ流されてしまった?それとも……人間に?!)
ルースは、大きく首を振り、まだ探してない所があるはずと、尾びれを大きく動かした。
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