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想い
──マデリーンをサマンサと引き換えに、親方へ渡す。
決めた事なのに、ヨシュアは落ち着かなかった。
ヨシュアは、居間へと向かった。
扉を開ければ、床には、縛られ、ぐったりとしたマデリーンが、横たわっている。自分が、縛り上げたにも関わらず、罪の意識か、ヨシュアの胸は、キリキリと痛んだ。
床を見渡せば、マデリーンが流した涙が、真珠に変わり、あちらこちらに転がっていた。
マデリーンは、何か言いたげに小さくうめき声をあげている。
ヨシュアは、気が付けば、猿ぐつわをはずしていた。
「ごめんよ、マデリーン。仕方ないんだ」
ヨシュアの頬を一筋の涙が伝った。そして、ポタリとマデリーンの頬に落ちた。しかし、それは真珠へとは変わらない、ただの涙だった。
「ヨシュア、泣かないで。私の真珠、使って」
マデリーンは、真珠の涙を溢しながら、にこりと笑った。
「何で?!僕は君を、ひどい目に合わせているんだよ!」
「私もわからない。でもヨシュアの役に立ちたくて……」
ヨシュアは、ロープを解くと、マデリーンを抱き寄せた。自分でも何故だか分からない。この想いが何を表しているのか、なぜ、自分は目の前のマデリーンを守りたいと思うのか。
腕のなかで、マデリーンが、か細い声で呟いた。
「サマンサに聞いたの。お母さんが、病気だから、お金が、たくさんいるのよね。だから、この真珠を使って」
「マデリーン……」
ヨシュアは、マデリーンの頬に触れると、そっと口付けた。
「兄さん、愛してしまったのね……」
気づくと、居間の入り口に、サマンサが立っていた。
「だめよ、兄さん!母さんの為なの!」
「サマンサ、僕は……マデリーンを渡せない」
苦しげに言葉を紡ぐヨシュアをじっと見つめていたサマンサは、さっと、踵を返した。
「母さんよりも、そのこが大事なのっ!?もういいわっ、今から親方を呼びに行くっ!」
バタンとサマンサがたてた玄関のドアが閉まる音に、ヨシュアの心は固まった。
「マデリーン……時間がない、サマンサが親方を連れて来る前に逃げよう!」
「でもっ」
ヨシュアは、マデリーンの白く小さな手を強く握りしめた。
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