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別れ
波の音が心地よい。サマンサは、太陽に照され、黄金色に輝く海面と同じ色の髪を靡かせながら、砂浜に佇んでいた。
親方のところへなんか、行くはずがない。
ヨシュアに、決断させるため、とっさについた、嘘だった。
マデリーンと、どうか幸せに暮らせますように。と、思ったとたん、マデリーンの瞳から大粒の涙が溢れた。
それは、砂浜へ転がり落ちた。真珠へと形をかえて……。
大きな嵐の翌日、砂浜で泣いていたサマンサは、母親に拾われた。辺りにはサマンサが流した涙が、真珠に変わり、散らばっていた。
母は、この事は誰にも言ってはいけない、二人だけの秘密と、サマンサを優しく抱き締めてくれた。
そうして、ヨシュアの妹として、分け隔てなく育ててくれた。その母が、病に倒れ、入院代に大金がかかるようになる。
父親はサマンサが、拾われる前に、事故で亡くなっていた。
自分しかいないと、ヨシュアは、夜昼、掛け持ちで働いた。それでも、入院費は嵩むいっぽうだった。もっと、仕事をと、焦るヨシュアの姿に、サマンサは、親方の店で働く事を自ら申し出た。
これ以上、ヨシュアが、ボロボロになっていくのを見るのが、耐えられなかった。
そして、ヨシュアが、愛する人に出会った今、自分は、ヨシュアから離れるべきなのだ。
「さようなら、兄さん。いえ、愛するヨシュア……」
今頃ヨシュアは、マデリーンを連れて遠い場所へと向かっている。
そして辿り着いた誰も知らない場所で、二人は幸せになる。
サマンサは、胸の奥に秘めていた思いと訣別するかのように、人々の住む街を見た。
ポツポツ建ち並ぶ家の、ひとつ一つ一つに、家族がいて、愛する人がいる。その一つに、ヨシュアとマデリーンが、加わるのだ。
サマンサは、「はじめからこうしておけば良かったのよ……。母さんのことは、私が……」と、呟いていた。
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