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 目を閉じると、視界いっぱいに鮮やかな緑色が広がる。  俊足で良かった、と思う。俊足だから、あの不気味に騒めきながら襲いかかる巨大な草どもから、簡単に逃れ去ることができるのだ。捕らわれたら最後、世界は暗闇の底に遮断されてしまう。  研ぎ澄ませ。  十秒見つめなければ、見えないものがある。  見えてしまったら、足が動かなくなることがある。  何とか動いた足が、人を傷つけることがある。  いつか謝るつもりで、その相手を見失うことがある。  少年は駆け足が自慢だった。光の弾丸になって、憂鬱の草むらを貫く。鬼ごっこでもケイドロでも、誰も自分には追いつけない。  颯爽と、軽やかに、悠々と。それはまぎれもなく、独走だった。  そんな快感に、少年はいつだって酔いしれた。
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