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 滝本敦司の病室を出て、関は足早に医事課への道を歩いた。  帰りは階段でいい。少し、運動をしよう。それからまた母とウナギを食べて、父のお墓参りをして、園美とくだらないお喋りがしたい。仕事はまあ、そこそこに、だけど朝イチの掃除は今まで通り。あと、恋愛もしようと思った。  階段を駆け下りる。  とても寂しい気持ちだ。  涙が溢れてくる。心臓をぎゅっと握りつぶされてしまいそうな、どうしようもない心細さと喪失感に、心のうちを支配されてしまった。  今、自分は此岸にいる。  そこには残酷な掟があって、詩人も享久も泣いたという。いや、享久は泣いてはいなかっただろうか。それはどうでもいい。  私のかくれんぼも、もう終ったんだ。  それなのに、何がそんなに寂しいのだろう。  関は、まわりに患者がいないことを確かめた。それからスカートの裾を軽く抑えて、最後の二段をひらりと跳んだ。
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