白い孤独

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白い孤独

 「ママー、どこー? ねえー、ママー? ママーどこー?」 白い、どこまでも果てしなく続く白い世界の中で俺はもがいていた。 母がいないんだ、さっき帰ってきたはずの母がいないんだ。 どこにもいないんだ。 また、独りぼっちにされちゃった。 寂しい、気が狂いそうなくらい寂しい。 「ママーー!! ねぇ、ママーー!! ママーーどこー!?」 がっくりと膝を付き、俺は崩れ落ちる。 寂しさに、苦しさに耐えきれなくなって、俺はとうとう爆発していた。 でも、こには誰もいない、誰も助けになんか来てくれない。 俺の泣き声だけが渦巻いている。この白い世界の中で。  だから、さすらった。だから、のたうち回った。 母がどこにいるのかさえもわからず、何をしているのかさえもわからず、そのうち自分のいる場所さえ見失うしなって、あてもなく放浪した。 それでも見つからず、白い世界を漂った。 ただ会いたかった、抱き締めてほしかった。それだけだった。 母に、俺だけの母になってほしくて、 ホンの一時、それだけでも良かったのに。  ある日気付いた。 飛んでいる自分に。無意識の内は良かった。 でも、気付いた時には叩き付けられていた。 夢だから、大丈夫。 そう思っていた。 でもそれは、恐怖を生んだ。 「ママー。助けてー!!」 縮こまった身体を、 更に縮こめて。 ただ、震えていた。 なぜ飛べるのか、解るはずもない。 俺はただ、母に会いたかった。 抱き締めてほしかっただけなんだ。  怖かった。 物凄く怖かった。 又叩き付けられる。 そう思っていた。 高所恐怖症、その夢は、いつの間にか、もう一つの傷みを生んでいた。  そして俺はついに見つけ出した。 俺だけの母を。 広い、広い、一面の白い世界。さまよい歩いたその果てに見た、母の姿、母は俺を胸に抱いていた。 そう、俺が見つけ出したもの。それは母の愛だった。  (ん? あれっ、何で母さんじゃないんだろう?) 頭の中では夢だとわかっていた。 でも俺はママと呼んでいた幼かった頃に戻っていた。 (あ、何で……何で又この夢を) 母に甘えたくなると良く見た夢。 母の胸の中でスヤスヤ寝ている自分を探す夢。 又あの夢を見ていた。  仕事が忙しすぎて会えない母を見つけて、泣きながら追いかけた。 それでも無理やり気持ちを押さえつける。 母に負担をかけさせたくなくて、俺は平気な振りをする。 母が時々見せる不安そうな顔。 それに応えるために、いつの間にか母の顔色をうかがう、そんな子供になっていた。 どんなに寂しくても、母の重荷にならないように、笑顔でいるようにしなくてはいけないと思った。 あの頃はただがむしゃらに、全てに無理をしていた。 そんな健気な姿に涙して、心を満足させようとして。 俺は今日も幼子に戻り、母の胸を求めている。 俺は見た。 あの夢の中で、白い世界をさまよった果てに、俺だけの母を、やっと見つけ出したんだ。 母は俺のベッドの上で子供を抱いていた。 俺を抱いていた。 寂しさの果てにやっと見つけ出した境地。 そう、心のより所。 俺だけが独占している母の胸。  (わあー! ママが抱いてくれている。きっと今、ママの胸に抱かれながら眠っているんだ。そうか! ママは俺が寝た後でいつもこうやってくれていたんだ) 素直にそう思った。 だって母の胸を占領しているのは、鏡の中で目にしてる自分そのままだったから。 だからこうして一人でも耐えて来られたんだ。 まるで自制心と克己心の塊のような生活。 だからこそ、母に甘えたくなるとあの夢を見る。 「ママー。ママー」 頭の中で俺の泣き声だけがこだましていた。 白い世界の果てに、母の愛を見つけるために 俺は又夢を見る。 本当は怖いくせに飛べない翼身にまとう。 飛んで、堕ちての繰り返し、そしてあきらめ 夢の中をさまよい歩く。 そして未だに叫び続けてる。 「ママーー!」 俺は夢の中で母を探し続けてる。 探し求めている。
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