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気がつくと暖かく清潔な布団の上に寝かされていた。
見上げた先は屋根裏の天窓ではなく、落ち着いた品の良い飾り天井。
右手の大きな掃き出し窓から見える景色は、こじんまりとした和風庭園のようだった。
「雪子」
傍らに、軍服姿の逞しい若者が腰掛けていた。
朔太郎だ。
安堵と不安が同時に押し寄せてくる。
「わたし、あの……あ、あいつが…あいつが追いかけてくるわ……」
身を起こそうとしてふらついた。
「雪子っ。いいから寝ていてくれ。奴なら大丈夫だ、ここまでは来ないよ」
「本当に?」
「ああ、今頃家宅捜索が入っている。少女連続誘拐事件の容疑者として、軍はずっと奴に目をつけていたけど、証拠がなくて踏み込めなかったんだ。雪子が持ち出してくれた品が役に立った。あと鳩もね」
「あ、あの鳩は」
「俺の鳩ではない。でも市民から通報があったんだ。手紙を運んできた鳩がいるって」
全身の震えがなかなか止まらない雪子を、朔太郎はそっと抱きしめた。
「迎えに行くのが遅くなって本当にすまない」
やせ細り傷だらけになった醜い自分の姿が恥ずかしく、またやむを得ずとはいえ淳也の手に落ちた日々が、朔太郎に対する裏切り行為かと思うと、容易に身を委ねられなかった。
「私はもうあなたの隣に戻ってくる資格がない」
弱々しく身体を押し離すと、反動で背面に倒れ込みそうになった。
朔太郎は素早く抱きとめて、丁寧に布団に寝かせてくれた。
「戻るも何も、最初からずっと俺の隣は雪子だろ」
涙で滲んでよく見えなかったが、厳つい顔の青年が耳まで赤く染めているのはわかった。
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