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熱い湯を浴びて部屋着に着替え、ワインとともに食事を食べる。
今日の料理はカツレツと青菜のソテー、人参のグラッセ、夕焼けのように澄んだコンソメのスープ、デザートには柿が添えられていた。
疲れた身体の隅々に栄養が行き渡り、細胞が満たされていくのがわかる。
料理はたっぷり盛られており、半分ほど食べ終えると淳也はナプキンで口元を拭った。
そもそも、ワインを飲むと食事はあまり摂らない。
残った食事を平たい大皿にセンスよくまとめて、使い終わった皿は片付ける。
ミルで豆を引き、天然水で珈琲をいれる。
芳醇な香りが部屋にみちる。
珈琲と大皿を盆に載せて二階の自室に運び、読書をしながら至福の1杯。
これも毎日の日課だ。
琥珀色の液体を眺めながら、乱れそうになる気持ちを整える。
そして湯気が消えた頃、ゆっくり立ち上る。
本棚から分厚い辞書を取り出し、奥にあるつまみに手を突っ込んでロックを外す。さらにもう一箇所も同じように解除。
せっかく珈琲で落ち着けた感情が、再び鎌首をもたげそうになり、1つ深呼吸を落とす。
それから本棚に両手を載せ、体重をかけて押しこむ。
すると、棚の一部がゆっくりと回転して通路が出てきた。
淳也しか知らない隠し扉だ。
薄暗い扉の奥には人一人通れるくらいの階段がある。
淳也は盆の上に明かりを乗せ、はやる気持ちを必死に押えつけながら、階段を登っていった。
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