Departure

2/6
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 洋服箪笥から動きやすそうな上下を拝借して着替える。  肩からかけられる小さなカバンもリサーチ済みで、そこに先程手に入れた小箱の中身を入れる。  それから部屋の隅にある戸棚に向き合った。そこには部屋の主に似つかわしくない幾つかの品が飾られている。  空色のリボン  帯締め飾り  朝顔の絵柄の手ぬぐい  西洋の人形  これらは、淳也の集めたコレクションだ。  屋根裏にかどわし、洗脳し、廃人にさせて、己の欲望のままにぞんざいに扱って命を奪った少女たちの形見の品。  雪子は、戸棚の中央にある日記帳を手にとった。  これは雪子自身のもの。淳也に攫われた日に持っていた。  少しの時間日記帳を胸に抱いてから、他の遺品の品々と共にカバンに収めた。 「行かないと……」  自身に言い聞かせないと足が前に進まない。  淳也はこの時間は仕事に出ているはずだし、今日は吉津は来ない。  そう言い聞かせても、心臓が早鐘を打つのは止まらなかった。  きっと油断しているはず。  洗脳が効いて淳也に心酔している演技は、ヘドが出そうなほど嫌だったが、この日のために我慢してきた。  淳也はいつも、屋根裏に来るとすぐに雪子の手首を縛り自身の左手首と繋げた。  本当は触れるどころか、同じ空気を吸うことさえ気分が悪いのに、身動きが取れない状態で密着せねばならず、最初の頃は不快なあまり食事も喉を通らなかった。  屋根裏に訪れた淳也は、始終ブツブツ言いながら一人ニヤついている。  内容は知りたくもないが、自身の描いた妄想のストーリーを楽しんでいるのだ。  猫なで声で優しいフリをした次の瞬間、容赦なく雪子を傷つける。自分の思い通りにならないと癇癪を起こす子どものようだった。  このままあの薄暗い部屋で飼われているくらいなら、自らの意志で行動して散る方がいい。  雪子は最大の難関に立ち向かった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!