Departure

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 玄関に近づくと、すでにドアの外側近くに獰猛な唸り声が聞こえている。  不審者の気配に気付いた淳也の愛犬が、鋭い牙をむき出して襲いかかろうと構えているのだ。  急がなくてはいけない。  敷地は広く隣家との距離は離れているとはいえ、大型犬3匹に吠えられたらさすがに異常事態を疑われるかもしれない。  1つ息を吐いてから玄関ドアを勢いよく開けた。  グーッ!ガウッガウッ!!  ヨダレをたらし白目をむいたドーベルマンが3匹、飢えた目で勢いよく飛びかかってくる。薬物により調教され、飼い主以外には襲いかかるよう仕込まれた猛獣たちだ。  胸の高さほどの鉄フェンスで玄関ポーチに囲いがしてあるが、興奮した獣にかかればすぐに壊されてしまいそうだ。  雪子はカバンから取り出した黒い塊を投げつけた。  野獣たちは勢いを止め、低い唸り声をあげて地面に落ちた黒い塊をしばらく警戒して見ていた。  が、そのうち一匹がパクリと口に入れる。すると、みるみるうちに猛犬の顔は締まりがなくなり、酩酊してその場に倒れ込んだ。  効果は絶大だった。  急いで追加の塊を投げ入れる。  2匹目も同じようにして倒れたが、最後の一匹だけは落ちた塊をなかなか口にしなかった。雪子が長い棒を使い口元に近づけてやると、誘惑に耐えかねたように口にくわえた。  ほどなくして、3匹仲良く横たわった。  今のうちだ。  地面に伸びる獣たちの横をなるべく平静を装って外界へ向かって進む。  門扉を内側から開けると、眩しい世界が広がっていた。  
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