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11-20
-11-
年が明けた。
明ける、という言い回しは不思議だ。
日常の中で、年は『重ねる』ものだろう。
他に『明ける』ものは夜くらいだろうか。
だとしたら、旧い年はいつも暗いのかもしれない。
前途はいつも明るいのかもしれない。
僕は血のついた包丁を取り落とす。
この道行きの先も、明るければいいのに。
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「叶わない夢だとわかっているわ」
浜辺で出会った人魚は切なげに呟いた。陸の暮らしを知りたい、人の家を見てみたいと言う。
「好奇心旺盛だなあ」
しばらく汽水域で体を慣らしてもらい、僕は彼女を山奥へ運んでやった。
「ちょっと古いけど」
ダムに沈んだ村を存分に探検し、彼女は大喜びだ。
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晩飯時を過ぎた頃、不意に停電が起こった。
マンションのベランダから外を見ると、近隣一帯が真っ暗だ。
しかし夜空を見上げると、星がいつもより美しい。
その中を進む嫁入り行列が見えた。
狐は晴れた空を虹で彩るが――星の輝きで道行きを照らし、我々に見送らせる、アレは一体。
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昔から時折、空を飛ぶ夢を見る。内容はその時によって様々だ。
少ししか浮いておらず、しかし足は地に着かなくて困る夢。
飛んだと思ったら急降下し、パニックになる夢。
そして今日は、高く高く、どこまでも昇ってゆける夢。
「夢ではないですよ」
今日は隣に誰かがいる。
「この景色も、見納めですね」
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満開の桜の小道。人で賑わう中を、彼女は俯いて歩く。
「桜、見ないの?」
せっかくのデートなのに。せめて僕の方を見てくれないかな。
「だって……」
彼女が小声で囁く。
先ほどから少し前を歩いているのが、彼女の父親と、見知らぬ女性であることを。
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餅が余った。
正月を過ぎて安くなったのを、母が非常時の備蓄として買い溜めたのだ。しかし食べ物には賞味期限というものがある。
「切れる前に使っちゃおう」
その夜、父が喉に餅を詰まらせた。
機嫌が悪いとすぐキレる厄介者であったが、昨年退職してお役御免となった所だった。
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「『その男は屍肉を切り刻む事を生業としていた。また、その隣の男はある意味で異界の生物の構造に精通しており、見事に捌いてみせた』……コレ国語の作文じゃなく、社会科の職業体験レポートのはずなんだけどな? 行ったのは商店街よね?」
「肉屋と魚屋のプロの技を見せて頂きました」
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夜の散歩に出る。
今日は月まで行ってみようか。
ヒトに見えない階段を登って。
雲の上で寝転がって。
風に運んでもらって。
降り立った月で、ヒトの目に見えない生き物の群れに会う。
生まれる前の、「タマシイ」と呼ばれるそれら。
今の自分とよく似たすがた。
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友人に勧められてカラーコンタクトを入れてみた。
不思議なことに、赤のカラコンならその人の体力ゲージが。
青なら抱えた病気が。緑なら趣味や特技が見える。
私は茶色を愛用するようになった。
これは相手の名前が見えるだけだが、何年ぶりの知り合いに話しかけられても、怯まずに済むのだ。
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ついにスパイを突き止めた。コードネーム『カタツムリ』。名前の印象から鈍重な奴を想像していたが、案外普通の男だった。「惜しかったな。もう俺は『カタツムリ』じゃない」相手はニヤリと笑う。「今は『ナメクジ』だ」盗まれた機密情報は、既に他国の手に。
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