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毎年、夏になると海辺のホテルにやってくるご夫婦。
奥様は車イスに座り、大きなひざ掛けをかけている。優しげな旦那様はいつも楽しげに押していた。
だがある夜。
海の近くに放置された、空の車イス。
砂浜には、旦那様が一人佇む姿。
何事かと目を凝らすと、波間に奥様の泳ぐ姿と、月の光にきらめく尾が。
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私には前世の記憶がある。
(私は以前もあなたの側にいたのですよ、坊ちゃん)
……そんな事を言えばきっと気味悪がられるし、おかしくなったと思われるだろう。
「今日の夕飯は?」
「シチューですよ」
メイドロボは答える。
昔、犬の姿の幼児用玩具が壊れてからも長い間大切にしてくれた青年に。
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「これは魔法の鏡でございます」
ある大臣は女王に貢物をした。そして女王の側仕えには、腹話術の使える者を配置した。
「この世で一番美しいのは?」
『女王様でございます』
これで一日ご機嫌だ。
しかしある時、手が離せず、側仕えは見習いに代理を頼んだ。
運の悪いことに、見習いは正直者だった。
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ごうごうと風が吹き荒れている。
こんな日は、昔出会った家庭教師を思い出す。
……強風の日は特別よ。いつもなら傘ひとつで私しか飛べないけれど、これほど風が強ければ、もっと重いものも飛べるから。
海が見たいと泣く象や、銀河を夢見る列車をね、傘一本でぶら下げて、共に夜空を旅するの。
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明るく晴々とした日も暗く重苦しい日も、手には一本の糸があり、それを手繰って生きている。
どこに行き着くのか誰も知らない。けれど手を離したら迷子になることだけは確実で、それぞれが自分の糸を持っている。
糸は、今ではないいつか、ここではないどこかに繋がっている。
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卵を貰った。肌身離さず温めるように、と。何が孵るかは内緒だそうだ。
「生き物の世話などできんぞ。ましてや、何の生き物かわからないなんて」
まあまあ、大丈夫だから。と任されて半月。元気に生まれたのはAIだった。私の温もりを学習して育ったらしい。
「この最初の温かさが大事なのさ」
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私が吸血鬼だと知って、どうか吸血鬼にしてくれと頼む少女。
「我々は子を成せる。生殖で増えるのに吸血で同族を増やすわけがない。昔からあるデマだよ」
と諭して帰した。人間が吸血鬼になるなど犬を猫にするようなものだ。
現代では秘密だが、せいぜい配下にして隷属させるだけである。
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昭和の時代にあったバレンタインの特別感はもはや戻ることはないだろう。
「男女関係なく、告白する日にすれば良かったのかな」
と言うと妻は首を振る。
「好きでもない男から貰ったチョコとか食べられない」
曰く、地雷男性の行動力はシャレにならんそうだ。
なるほど、見えない所に安全装置があるものである。
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チョコレートのお城を作る。
黒くてほろ苦い城壁。カーテンやタペストリーはやわらかな色合いの白。寝室のカーペットは可愛らしいピンク。緑のチョコを敷いた庭。
大丈夫、溶けたりしない。
心を閉ざした私の心象そのままにこの地は常に凍えてて、甘い香りでほんの少しだけ寒さが緩む。
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ネットで購入した古い短剣。ただ飾るつもりだったが、由来のある物だったらしい。憑いていたものに憑依された。
『私は魔を祓う狩人。お前の体を借りるぞ』
私の意識がない内に、そいつは活躍しているらしい。目が覚める度に英雄扱いされる。
あっこれアレだ、推理クイーンの女子高生探偵…。
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