31-40

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-31-  その人魚は声を失うのが怖かった。だから魔女から薬を盗んだ。  浜辺で飲むと、魚の尾が脚に変わる。  だが脚はたちまち腐り落ちた。定着の魔法までは知らなかったのだ。  足のない少女は人間に捕らえられたが、彼女には類稀な歌声があった。  城へ献上された彼女が歌うのは、王子の結婚を祝う歌。 -32-  白い鳥が現れる。嘴に白い紙を咥えている。  黒い鳥が現れる。こちらも白い紙を咥えている。  白い鳥は過去から。  黒い鳥は未来から来る。  鳴き交わす鳥の言葉を私が紙に書いて、また持たせる。  過去から来る鳥には予言となり、未来から来る鳥には原因となる物事を記す。  現在の巫女たる私の仕事。 -33-  流行り病で多くの死者を出した王都では、みなマスクをするようお触れが出た。  しかしある男はマスクを嫌がった。 「これは愚か者には見えぬマスクです」  彼が言い張ると、真似をする者が増えてきた。 「ではこのワインを口に含み、吹いてみよ」  真っ白な制服の騎士が鋭く睨むまでは。 -34-  祖父の本棚は不思議だ。3巻や7巻といった、半端な物ばかり並んでいる。 「処分したシリーズは、私にとって卒業した学校のようなものでね」  祖父は笑う。 「それでも時折読み返したくなるエピソードは、忘れたくない友人や、恩師の言葉のようなものなんだ」  やがて娘が言う。 「ママの本棚って…」 -35-  妹の恋愛脳には辟易している。自分には全く関係のない、他人の在りようになぜあそこまで関心を持つのか。そして妄想をでっち上げるのか。 「妹さん、芸能人が共演してたら『裏で付き合ってる!』って言い出すタイプ?」 「男二人が出会ったら、恋が芽生えると信じてるタイプ」 「恋愛脳…?」 -36-  私は昔から気が散りやすくて、やろうと思ったことをすぐ忘れる。  けれど重要案件は直前に気づいて、惨事を避ける事が出来ていた。なのに。 「ここの所、失敗続きで…もう年かしら?」 「まあ、これからはやり方を工夫する事だね」  旧友が小さく笑う。 「君の背後にいたお婆ちゃん、成仏したみたいだし」 -37-  毎日、大きなすり鉢状の盆地を掃除して回る。  神官長曰く、草花は良いが木は生えてはならない。大きな石があれば取り除く。ここはいつか、世界の王が還る聖地なのだと。  不思議に思っていたが、ある日地面に大きな影が落ちた。  巨大な浮遊都市が、帰ってきたのだ。かつて在ったこの土地に。 -38-  花火大会の写真を、大きく引き伸ばして部屋に飾っている。 「お気に入りの写真ですか」  インタビュアーが問う。 「ええ。僕がアシスタントしてた頃の」  長く美しく慌しく、過ぎてしまえば瞬きのような。  自分の時間は、あの人の傍らにあった時が一番輝いて、美しかったように思うのだ。 -39- 「ああ、何ということだ!」  父は子を抱きしめて嘆いた。 「俺が悪かった、俺がお前の耳を忘れたばかりに」  子供は耳を真っ赤にして泣いていた。険しい顔をした母親は父親を叱った。 「日焼け止めは塗り忘れのないようにって言ったでしょ!」  昼間、子を外遊びに連れ出した父親はうなだれた。 -40-  昔々、ひどい飢饉が村を襲いました。  公式からの供給は途絶え、村人達は一人また一人と村を出て行きました。  お爺さんは飢えたお婆さんのため、二次創作を編みました。  お婆さんはエモいエモいと喜んでお爺さんの作品を貪りました。  やがて二人は同じく飢えた村人のために(ここで途切れる  ◇ ◇ ◇  語り部「…村人同士で作品を紡ぎ助け合うが、やがて解釈違いから対立が起こり、諍いを重ねた。  だがある日、突然公式からの供給を受けて村は燃え上がり、村人達は驚きながらもその火を囲んで手を繋ぎあったという。 『僕らはまるで友達のように踊るん」(ここでJASRACがやって来る
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