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-1-  ひっそりと大粒の宝石を深夜に埋める。これがあるから親族同士でいがみあうのだと祖母が泣いていたから。  誰もがその存在を忘れた頃、そっと芽が出て蔓が伸びる。  伸びて伸びて、ある家の窓辺へたどり着く。  人に騙されて会社を乗っ取られた主はかつての持ち主の子孫だった。  その蕾の中から、宝石が。 -2-  水底の魔女は人魚の声を瓶に封じた。  代わりに与えた足は、沈んだ船から運び出したヒトのもの。 「さて、お前さんの番だ」  足の持ち主であった魂に、今度は人魚の声を与える。  声は風に乗り、海原をゆく船乗りたちに届く。  船を襲い沈めた海賊たちを水底へ誘う、惑わしの歌が霧の中に響く。 -3-  村の掟で妹が神に捧げられる。  俺は社の前で妹を逃がし、代わりに残って待ち構えた。差し違えられれば御の字か――だが現れたのは。 『ようやく悟ったか。私に必要なのは婿だという事を』  迫力のある姿に、そういえば「山の神は女だ」という猟師の口伝を思い出していた。  大層嫉妬深い、とも。 -4-  死神と取引をする。 「私の命と引き換えに、あの子の名前をそのお迎えリストから消して頂戴」 『本当にいいのか?』 「もちろん。考えて考えて考え尽くして、これが最善手だと思ったの」  名指しした相手はいじめ主犯格。相手は未来永劫、死ぬ事なくこの世を彷徨う羽目になる。 「よろしくね」 -5-  罠にかかっていた鶴を助けた。後日、一人の女が家に来た。 「一晩泊めて頂いたお礼に、機を織りましょう。お部屋を貸して下さいませ」  いかん、その部屋に入るな。  少し前、谷に落ちた羊を助けてやったら女がやってきて、そこでずっと糸を紡いでおるのだ。  これで編んだものが、大層暖かくてなあ。 -6-  高台から美しい夜景を眺める。かつての好景気が戻ってきたような、高層ビル群。窓のひとつひとつに明かりがともり、まるで地上に星をまいたような景色。  あの頃、窓の中で働いていた者には、高額な残業代が払われていた。  今、あの窓の中ではちいさく区切られたブースに家を持たぬ貧民が暮らしている。 -7-  学生時代の友人から興奮気味の連絡が入る。  かつて共に熱中した研究に関わる謎。  ……ああ、わかるよ。見ればわかる。  他の誰にも意味がわからない記号も、僕達が見れば。  胸の奥に火が灯る。  日々の仕事に忙殺され、忘れかけていた熱が蘇る。 「早く続きを送れ」  退屈に、魂が埋もれてしまう前に。 -8-  目には力が宿る。結び目、網目、カゴの目も。  ゆえに魔の力が増す死者の夜、故郷の村では編み物をする風習がある。  この日に編んだものを身につければ、災いから身を守れると。  街に出て、あの大きな事故に巻き込まれずに済んだのは、手袋がひっかかって家を出遅れたせいだったと妹は語った。 -9- 「異世界転生、ってやつだよ」  彼はそう言った。ここはゲームの世界だと。  でも私はその作品をプレイしていなかった。  彼はこの世界のシステムやシナリオについて教えてくれた、私の同胞であり救世主。なのにこんなところで。 「ミスった…あとは、頼んだよ」  ええ。勇者を倒し、私が魔王になる。 -10-  不老不死の薬が出来た。  人口爆発を防ぐため、権力者と富裕層だけが使用した。  しかし不老不死は停滞と同義だ。当然のことながら、政治の腐敗が始まる。  国は衰退し、戦争し、やがて不死者は捕らえられた。  死刑にできぬ彼らは、神として祀る。  高みにあるべき彼らを今日、宇宙へと打ち上げる。
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