真っ直ぐにはなれない

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真っ直ぐにはなれない

昔からよく勘がはたらくほうだった。第六感があると言えば聞こえはいい。 けれど、臆することなく真正面から立ち向かったり、破天荒に行動してみたりと、姿かたちの見えないものの存在すら頭に入れず生きている人は憧れの的でもあった。 間近にいる人物がその対象の場合、日々自分とその人を比べて、悲観的になる。 ふとした瞬間に胸の中に雨雲が広がって、どんよりとした色の空が感情にまで入り込んでくる。 アイツは自由だ。 授業中に教壇に立つ大人から名前を呼ばれても、反応を見せなかった。 気まずい空気が生まれるには十分すぎる時間が過ぎ、もう一度呼ばれてようやくアイツは顔を上げる。 「黒瀬さん、せめて教科書を開きましょう」 数学の先生の口調は丁寧なものではあるが、声音には明らかに怒気が滲んでいた。おそらくクラスメートのほとんどがそれに気付いている。 気付いていないのは、一番気付くべき人間の克。教科書も机の一部のようにして両肘で潰していた克は、眠そうに目をこすりながら立ち上がった。 「なんですか」 珍妙な言葉に、教室はざわつくどころか真夜中のような静けさが広がる。克は教壇にいる大人をじっと見つめている。 相手を煽っているのではない。克はただ話を聞いていなかっただけだ。名前を呼ばれたことだけを認識している。
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