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「卒業式の翌日に行かなくたっていいのに……」
三月。吹きっさらしの簡素なホームに見送りの若い女の子が数名固まっている。輪の中心にいるのは朝倉梨々香、昨日高校を卒業したばかりだ。
「ごめんごめん。早くあっちの生活にも慣れたいし」
「だからって卒業式の翌日はないじゃん。あーあ、卒業旅行だって行きたかったのに」
白い息を撒き散らしながら文句を言うのは、梨々香の親友、佐山瑞希。地元に残って就職する彼女にとって、親友が卒業式の翌日に上京するだなんて文句を幾つ言っても足りないくらいだろう。
しかしながら、梨々香は一刻も早くこの忌まわしい地から離れたかった。本当なら卒業式を終えたその足で東京に向かいたいくらいだったのだが、さすがにそういうわけにもいかず、出発を翌日に持ち越した。だから梨々香としてはこれでも譲歩しているのである。瑞希には申し訳ないが、彼女と高校時代の名残を惜しむ時間よりも、梨々香はここから出ていくことのほうが重要なのだった。
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