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「良かったらどうぞ」
「い、いえ。結構です」
ピエロはまだなにか言いたげだったが、タイミング良く電車が到着し、梨々香は足をもつれさせながら慌てて車内へと飛び込んだ。目についた座席に座り、細く長く息をつく。指先が震え梨々香は目をぎゅっと閉じて、両手を強く握りしめた。
早く今日が終わってほしい。祈のことなど早く忘れ去ってしまいたい。物理的な距離を置いても尚、ヤマイモのネバネバが触手のように追いかけてくるような気がする。
噂で聞いた話では、祈は小さな町工場の事務員として就職したらしいのだが、わずか三ヶ月ほどで辞めてしまったという。その後、彼女がどこでなにをしているかは誰も知らないというのだから、こんなに恐ろしいことはない。願わくば死んでいてほしいとすら梨々香は思う。
アパートの最寄り駅で電車を降りると、梨々香はなにかを振りきるように早足で改札へと向かった。早くアパートに帰って今夜はすぐに寝てしまおう。明日になれば祈の亡霊も消える。今日はハロウィンだから精神が不安定になっているだけだ。
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