Trick or Treat?

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 梨々香の人生において、いじめなど皆無に等しかった。誰かにいじめられたこともなければ、いじめたこともない。むしろ、いじめられそうな子とは進んで友達になったくらいだ。いい子だったというわけではない。ただ、梨々香は和が乱れるのをひどく嫌った。平等でないことが、世界のなによりも嫌いだった。  すべては中学一年の秋にはじまった。  今でも思う。何度も後悔している。どうしてあの時、学校にお菓子なんか持っていったのか。残った最後のひとつを、どうして、よりにもよって山野(やまの)(いのり)にあげてしまったのか。 「Trick or Treat!」  梨々香が下駄箱から内履きをだしていると、ぴょこんと跳ねるように佐山瑞希がやってきた。両の手のひらを上に向け、お菓子をもらう気満々の顔で。 「おはよう瑞希。そうくると思って……はい、これ」  学生鞄とは別に持っていた紙袋の中から、個包装のクッキーをひとつ取り出し、瑞希へと差し出す。カボチャのランタンが描かれた包装の中身は普通のバタークッキーだ。それでも特別感があって、なんだかワクワクする。
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