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フェリクス様が僕の大好きな優しげな笑顔で挨拶をしてくれたから、僕もそれに返事を返して彼へと少し緊張しながら近づいた。
純白の衣装に身を包んだ彼は何処まで綺麗で格好よくて、太陽光に照らされてキラキラと輝く金糸の刺繍と風に揺られてたなびくマントが彼の存在感を主張しているようだった。
「とても綺麗だよ」
そう言って僕に笑いかけてくれたフェリクス様に見惚れながら、本当に小さな声で、ありがとうございますと感謝の気持ちを伝える。
フェリクス様に手を引かれて馬車に乗り込むと、広い馬車の中で何故か隣同士腰掛けて座った。
手は繋いだままなことに動揺してしまう。
「……フェリクス様、手を……」
「嫌だった?」
「う、そんなこと、ないです」
「良かった。今日のルダは一段と美しいから、手を繋いでいないと誰かに攫われてしまいそうで少しだけ不安なんだ」
眉を垂れさせて恥ずかしそうか打ち明けてくれるフェリクス様に僕は熱い視線を返した。
彼の言葉や行動ひとつひとつが僕の心をさざめかせて、身体を熱くさせる気がする。繋いだ手から僕の気持ちが彼へと流れ込んで、バレてしまったらどうしよう……。
フェリクス様のことが大好き。
大好き過ぎて、彼と接するとどうしたらいいか分からなくなる。
男の僕が王太子様を好きになるなんて無謀だ。
それでも、この気持ちは消すことは出来ない。
それから会場に着くまでの間、手を繋いだ僕たちの間には沈黙が流れていた。それでも、まるで繋いだ手からお互いの気持ちを共有しあっているような気がしてその沈黙は嫌なものには感じなかったんだ。
ゴツゴツとした大きな手の平の温もりを感じながら、この手が僕の瞳を治してくれたのだと嬉しくなった。
彼の魔力が混じってしまった右目を鏡で見る度に、まるでフェリクス様と一緒にいるみたいな気持ちになって嬉しくなる。
だから、今はその瞳のおかげで火傷痕の酷い右側を少しだけ好きになれたきがしているんだ。
全部、フェリクス様のおかげだ。
フェリクス様の優しさが僕の雁字搦めになった暗い心を梳かしてくれるから、僕は彼の前では心から笑うことが出来る。
「フェリクス様、どうして僕を誘ってくれたんですか」
馬車が会場に止まる少し前に尋ねると、フェリクス様は繋いでいた僕の右手を撫でてからやっぱり綺麗に微笑んだ。
「私がルダに隣にいて欲しいと思ったからだよ。それに、物凄く会いたかったから」
「……それって……っ……いえ、嬉しいです」
婚約者になって欲しいってことですか?っていう言葉は呑み込んだ。
だってもしそれが自惚れだったら悲しいから。
「いつかこの思いをきちんと伝えさせて欲しいな」
それなのに、ほらまた、フェリクス様はそう言って僕のことを期待させてくる。
だから、僕は分不相応な夢を見てしまうんだ。
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