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フェリクス様にエスコートされながら会場に入ると、思い思いに楽しんでいた貴族達が一斉に僕達の方に視線を向けてきた。
彼らの視線は王太子でおるフェリクス様から僕へと流れて行く。
その事に緊張しながらフェリクス様の隣に並んでゆっくりと会場内を進んでいくと、フェリクス様は威厳のある貴族様と夫人の目の前で足を止めた。
お二人が主催者であるダズリー公爵様と公爵夫人様だとこっそりとフェリクス様が教えてくれる。
「これはこれは王太子様。この度を足を運んで頂き感謝致します。お噂はかねがね」
「こちらこそ、お招き頂き感謝致します」
二人が握手をするのを黙って見つめていると、ふいに公爵様が僕の方に視線を向けて、ところで……と切り出した。
「ところでこちらの美しい青年はどちらのご子息ですかな?」
ダズリー公爵様の問を受けて僕がフェリクス様を見ると、小さく頷いてくれたので、僕は少しだけ前に出て公爵様へと挨拶をした。
「エスメラルダ=アルステッドと申します」
「ああ、アルステッド公爵の……。ずっと病で伏せていると聞いていたのだがまさかこんなに美しい青年だとは。公爵が隠したくなるのも頷ける」
「……お褒め頂き感謝致します」
感謝の言葉を述べながらも複雑な心境は拭えない。
お父様は僕のことを病だと言っているのだと知って更に気分は暗くなる。建前は大事だ。けれど、本当の僕は病等ではないし、お父様からは嫌われてしまっている。
それに仮面を外せば途端に美しいというダズリー公爵様の言葉は覆されるだろう。
「他の方にも挨拶をしてこなければなりませんのでここら辺で」
「ええ、楽しまれてください。ああ、それから娘のアニーシャにも会ってやって下さると嬉しいのですが」
「ええ、後ほど挨拶に伺います」
僕の気持ちを察してくれたのかフェリクス様がそう言って公爵様から離してくれた。
娘のアニーシャ様の話をする時に公爵様が僕の方に向けていた敵意むき出しの視線が印象的だった。
やっぱりフェリクス様のパートナー役というのはそういう意味も含まれるのだと実感する。
「先程の公爵の言葉は気にしなくていいからね」
フェリクス様がふわりと微笑みながら気遣ってくれるから僕は素直にその気遣いが嬉しいと感じた。それに、フェリクス様が隣にいてくれるなら何を言われても平気だとも思う。
「あら、もしかしてフェリクス様では?」
フェリクス様の隣に立っていられるのが嬉しくて、勇気を振り絞って彼の腕に手を回そうとした時、鈴の鳴るような美しい声に呼び止められてフェリクス様が足を止めたから、僕もそれに習って立ち止まった。
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