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さらりと流れる絹の様なブラウンの髪を靡かせて、フェリクス様の前へと歩み寄ってきたご令嬢は勝気そうなつり目を細めて嬉しそうにフェリクス様へと挨拶をした。
「王太子様にアニーシャ=ダズリーがご挨拶申し上げますわ。お久しぶりですわね」
「久しぶりだね。先程ダズリー公爵とお会いしてきたところだよ」
「お父様とお話をしているフェリクス様をお見かけして追いかけてきたのですわ。ところでそちらの方とはどういうご関係ですの?」
恋する乙女の様な瞳でフェリクス様のことを見ていたアニーシャ様は僕に視線を向けるなり目を細めて睨みつけてきた。
そんな彼女にフェリクス様が困り顔を浮かべる。
フェリクス様が困る気持ちは分かる。僕達は婚約している訳でもないし、お付き合いをしている訳でもない。それに数回顔を合わせた程度で、友人と呼ぶにも微妙な感じだ。
だから、実はフェリクス様がどう答えるのかは僕も気になっている。
「彼はエスメラルダ=アルステッド君。アルステッド公爵家のご子息で、私の大切な人だよ」
大切な人、という言葉にドキリと胸がはねた。
「……アルステッド公爵?それじゃあこの方が病がちだというコーラル様の双子のお兄様ね。そう、こんなに美しい方だったのね」
彼女の瞳の奥が怪しく光って、それが怖くて1歩後ろに下がった。
そうしたらフェリクス様が僕の腰を引き寄せて、アニーシャ様に向けて笑みを作る。
「どうやら彼は慣れない催しに疲れてしまったようだから失礼させてもらうよ」
「え、フェリクス様」
「さあ、行こうルダ」
促されて僕はフェリクス様と共にアニーシャ様の前から立ち去った。
近くのテラスに移動して一息つくと、フェリクス様が僕に飲み物を差し出してくれる。
それをゆっくりと喉に流し込めば少しだけ身体から力が抜けて緊張がほぐれた気がした。
「アニーシャ穣と話して疲れたでしょう。少し休憩しようか」
「あの、ご迷惑おかけしてごめんなさい」
「大丈夫だよ。それに、私の方こそ謝らないといけないね。アニーシャ嬢は私の婚約者候補の1人なんだ。だから、私の隣にいるルダを見て焦ってしまったのかもしれないね」
「……そうだったんですね」
婚約者選びの日には気がつかなかったけれど、あの日アニーシャ様もあの場にいたんだ。
僕はずっと俯いていたから誰が居たのかはあまりよく覚えていない。
「ねえ、ルダ」
「なんですか?」
「もし良かったら本当に私の」
ブラウンの柔らかな瞳が僕のことをじっと見つめてくるから僕はそれを見返して彼の次の言葉を待つ。
「おお!ここに居られましたか!」
けれど、フェリクス様が続けようとした言葉はテラスの入口の所でフェリクス様に話しかけたダズリー公爵様の声でかき消されてしまった。
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